(甘)君は妹
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芸能人も時々訪れるという、お忍びのカフェで、二人は向かい合って座った。
少し薄暗い店内に、キャンドルの火がユラユラ揺れている。
ひさびさの再会で少し残念だが、ぼんやりとしか顔が見えないので、顔バレの心配は低い。
以前、レンに教えてもらったお忍びデートの穴場で、まさかここに訪れる日が来ようとは思わなかった。
「ビックリした…まさかあんなとこで会うなんて!かなで、元気そうだね。」
「うん、私も。音兄に会えるなんて思わなかった。」
少女…かなでは、笑いながらアイスティのストローをカラカラと鳴らした。
音也の中の記憶では、彼女はまだランドセルだった。
早乙女学園に入った頃は何度か訪問していたが、デビューして忙しくなってからは、なかなか顔を出すことが出来なくなっていた。
それが、髪も伸びてすっかり中学生の女の子だ。
その成長ぶりにも驚いた。
丸い顔は相変わらずだが、それでも昔よりは大人っぽくなった気がする。
「ずっと来てくれないんだもん、寂しかったよ。」
「ごめんね…行きたかったんだけどさ。」
ストローをくわえながら甘えたように、下から見上げてくる上目遣い。
小さな頃からの彼女のクセだ。
内気だった彼女が、ビクビクしながら相手の様子を伺うときなどにやっていた、仕草。
今じゃすっかり、ただのクセになっているみたいだ。
「えーと…来年、受験だっけ?」
「うん…でも、私は高校には行かないんだ。」
「え、なんで?」
「早く働いて、少しでも施設に恩返ししたいの。ほら、可愛い弟や妹たちもいるしね!」
音也の頭の中に、ずっと小さい子どもたちの顔が浮かぶ。
年長の自分が、面倒を見たりして可愛がった、まるで兄弟みたいな子たち。
「でも…」
自分も早乙女学園で一年間という、ちょっと特殊な進路を選んだが…かなでは普通の女子高生になるより、施設のために働く道を選んだのだ…。
なんだか胸が痛んだ。
それを察したのか、かなでは取り繕うように笑って手を振った。
「あ、あのね。大丈夫だよ。自分で決めたことだし、中卒でも雇ってくれるところも決まっているんだ!」
いつでも音兄、音兄、とくっついてきていた妹分が、もう自分の意志で将来を決められるようになった。
時間がすぎるのは早いものだ。
「それより、音兄は夢を叶えたんだね。いつも活躍を施設で見てるよ。」
「そ、そうかな…まだ駆け出しだけど…」
「ううん、音兄は昔から明るくてキラキラしていたもん。テレビからも伝わってくるよ」
「そう?なんだか照れるね!」
そう言われるのは、素直に嬉しい。
昔から、施設でもってギターを片手に楽しく毎日歌っていた。
それを、いまはみんなテレビで見てくれているなんて
夢はかなうんだよ、って…少しは伝わったのかな。
「みんな、すっかりST☆RISHのファンになっちゃったんだから。」
「あははっ!そっか。みんなは元気?」
「うん。新しく入ってきた子たちもいるけど、音兄が知ってる子たちもみんな元気だよ。」
「そっか…会いたいなぁ…」
施設にいる、可愛い弟や妹たちの顔が浮かぶ。
早乙女学園に入ることが決まったとき、泣きながら応援してくれたみんな。
その中に、かなでもいた。
「いつでも来て。みんな大歓迎だよ。」
「うん、絶対に行く!」
そのとき、ポケットに入れてあった携帯が震えた。
設定していたアラームが鳴り、もうすぐトキヤと合流する時間であることを告げた。
「あ、ヤベッ…そろそろ時間だ。」
「え、もう?」
「うん、このあとトキヤと取材なんだ。」
店を出たら、一度トキヤに連絡をしよう。
まだ時間はあるが、トキヤは余裕を持って動きなさい、といつも言っている。
「トキヤ…って、一ノ瀬トキヤ?」
「うん、そうだけど…?」
名前はトキヤのファンなのかな…?と思ったけど、彼女は笑った顔のまま、まっすぐこちらを見ている。
「すごいね、本当に芸能人なんだ。」
ごく普通に言われただけなのに…
その言い方に、なんだか距離ができてしまったようで寂しくなった。
芸能人でも、俺は俺だよ…?
「じゃ、遅れないうちに行かなきゃね。トキヤさんによろしく。」
「あ、うん…」
スッ…と立ち上がった名前はやはり音也が知っている小さな少女の頃と違い、背は低いものの、当然当時よりは伸びている。
中学の制服が大人びて見せるのか、年頃だからか短く折ったスカートからスラリと伸びた脚が、彼女は女の子なのだということを意識させた。
女の子
そう思っただけで、寂しいような…くすぐったいような。
へんな感じ。
まだまだ幼いと思っていた妹が、少し離れてしまったような。
「じゃあ頑張ってね。応援してる。」
「うん…」
くるりと踵を返し、髪を揺らしながら去っていく後ろ姿を、音也はしばらく眺めていた。
当然、携帯なんて持っているわけはない。
繋ぐものはなにもなかった。
……いや、ある。
グッと力を込め、音也も現場に小走りで向かった。
待ち合わせの場所には、すでに同じく変装をしているトキヤが立っていて、音也に気づくなり眉間に皺を寄せた。
「音也、あれほど時間には余裕を持ちなさいと…」
「トキヤ!ちょっと相談があるんだけど!!」
「……は?」
トキヤの言葉を遮り、いつにない勢いで詰め寄る音也に、トキヤは面食らった顔をした。
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