いつも通りの朝、もうすぐホームルームが始まりそうな時間でクラスメイトも着々と席についていた。ぞろぞろと部活の朝練を終えた人たちも教室に入ってくる。

　前の席の男も同じようにバスケ部の朝練を終えて席についた。が、どうにもおかしい。いつもは清田信長の後頭部しか見えないのに、今日は清田信長の正面顔が見えるのだ。笑いながら私の顔を見つめる男は、目が合うとさらにニヤケながら私にズイと顔を寄せてきた。

「な、なんですか…。」

拳二つぶんほどの距離まで顔が近づく。近すぎる。何もしていないのに笑われている事に違和感と嫌悪感を抱く。さすが「無礼者」といったところだろうか。

「お前、俺が好きだったとはな。」

「は？　え？」

突拍子もない発言に耳を疑う。何を言っているのか意味が全くわからなかった。

「見たぞ、俺の似顔絵。お前には俺がああ見えていたんだな。」

「似顔絵」と聞いてハッとする。まさか、そんな、あの絵はすぐさま提出したはずだ、わざわざ興味がない奴が描いた絵を確認するなんて面倒なことをしたのか？　普通しないだろう。なのに何故、この男は私の絵を知っているんだ。

「な、なんでその事知って…。」

焦りと恥ずかしさで血の気が引く。終わった、私の高校生活。きっとからかわれて、好きな人を絵で美化して描いているロマンチストなんて噂されて、いじめにあうんだ。そんな絶望をしているなか、清田信長は今まで私に向けた事もない満遍の笑みでこう言った。

「そんな好きなら、俺と付き合うか？」

「は。」

ざわつく教室。男子の期待の目と女の悲鳴。あまりにも突然な告白は、私の先程までの絶望感を取り除くには十分すぎた。しかし、別の意味で頭は空っぽである。

何か言葉を返さなければならない。咄嗟に口が動く。

「ご、ごめんなさい…。」

思い描いていた高校生活が壊れていくきっかけは、勘違い男の公開告白を断ることで始まってしまった。