黒歴史からはじまる事もある
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海南大附属高校に入学して数日後、ようやく本格的な授業が始まった。
一年生で唯一ある選択科目は週に一度だけある。美術と哲学基礎、この二つの選択なので楽そうな美術を選ぶ人間は多く、美術室は若々しい声で賑わっていた。しかし私は、楽だからという理由でこの授業は取っていない。昔から絵を描くことが好きだったからという純粋な理由なのだ。
「おーい、静かにしろー。授業始めるぞー。」
気怠げな先生の声と共に教室は静まり、号令がかけられた。生徒たちが着席したのを見て先生は簡単な挨拶と今後の授業内容と成績内容を話していた、が興味なくて全く聞いていない。
「じゃあ、今日は交流も含めて出席番号順の二人で互いの似顔絵でも描くか。」
教室内がざわついた。
ようやく本日の授業が始まったかと思ったら、まさかの提案。嫌な汗が滲み出てくる。「えー、やだー」「オレ絵描けないからなー」と不満を言うクラスメイトの顔は満更でもなさそうに笑っていた。しかし私だけ違った。完全に眉間に皺を寄せて絶望を漂わせ空いた口が力無く下へ落ちていった。
そんな顔になる理由の男をチラリと見る。ロン毛ではねっ毛、イケメンで女子にも人気、しかもデカイ。明らかにクラスの中心人物であり、クラスの自己紹介でも目立っていた人物。清田信長…。
(絶対いやだ……。)
別に嫌いなわけではない。だが苦手ではある。
クラスでの自己紹介。大きい声で自信をもって「自分はすごい」ことを披露した彼。そしてその裏の席は私。
クラスを沸かせた人物の次に自己紹介をする事になってしまった私は、緊張に緊張が重なり、名前を三回噛むという最悪な自己紹介をしてしまった。
そんな経緯で、「黒歴史を作らせた男」というレッテルを勝手に彼に貼っていた。
「とりあえず今日描けるだけでいいから、さっさと始めろー。自分の名前と相手の名前も忘れず書けよー。」
ざわつく教室を厚紙を配りながら歩く先生。その声でクラスメイトはガタガタと机や椅子を移動させ、お互い向き合う形になっていく。清田信長も例外なく椅子を私と向き合うように動かしている。何も気にしてなさそうに無表情なまま男は、チラッとこちらを見ると
「名前なんだっけ。」
と興味なさげに聞いてきた。
「…国井…。」
「どーも。」
自分は名乗らないのかこの人。さも自分の名前は知っていて当然のような振る舞いをする男に少々腹が立った。
別に何を言うつもりもないが、さすがに常識が無いと思う。清田信長に追加で「無礼者」というレッテルが貼られた。
カリカリと鉛筆の擦れる音と「美形に描いてよー」「私そんなんじゃないってー」と、コソコソと声が聞こえてくる。人物画を描くのは嫌いじゃない。むしろ好きだ。しかし、相手がクラスメイト、しかも清田信長だったら話が違う。下手に描いて清田信長の機嫌を損ねるのも、美化し過ぎて女子に変な噂立てられるのも私はごめんだ。
(でも、手抜きはしたくない…どうしよう。)
うーむと悩みながらも鉛筆は動き、清田信長の似顔絵は作られていく。
(女子に疎まれない程度の出来で多少美化して…。)
2Bの鉛筆はみるみる丸くなり、右手は擦れて黒く汚れる。描けば描くほど整った顔であることがわかる。嫌だった気持ちは無くなっていき、目の前の人物と紙に集中していった。
…
チャイムが鳴った。授業が終わると同時にクラスメイトはワッと声を出して互いの似顔絵を見せ合った。
「ちょっと、私こんな鼻大きくないから!」「それ棒人間じゃねーか」「えー、可愛い!」
騒がしい声が教室で埋まる中、何も言わず席を立ち早足で先生に似顔絵を提出して、逃げるように教室から出た。廊下で安堵のため息をはく。
「はぁ、疲れたー…。」
なんとかやりきった。そもそも相手に似顔絵を見せなければいいだけの話だった。嫌に緊張してしまった自分を恥じる。
とりあえず、何事もなく終わった授業に安心しきった私は、帰りに新しい画材でも買いに行こうかと気分を踊らせた。
一年生で唯一ある選択科目は週に一度だけある。美術と哲学基礎、この二つの選択なので楽そうな美術を選ぶ人間は多く、美術室は若々しい声で賑わっていた。しかし私は、楽だからという理由でこの授業は取っていない。昔から絵を描くことが好きだったからという純粋な理由なのだ。
「おーい、静かにしろー。授業始めるぞー。」
気怠げな先生の声と共に教室は静まり、号令がかけられた。生徒たちが着席したのを見て先生は簡単な挨拶と今後の授業内容と成績内容を話していた、が興味なくて全く聞いていない。
「じゃあ、今日は交流も含めて出席番号順の二人で互いの似顔絵でも描くか。」
教室内がざわついた。
ようやく本日の授業が始まったかと思ったら、まさかの提案。嫌な汗が滲み出てくる。「えー、やだー」「オレ絵描けないからなー」と不満を言うクラスメイトの顔は満更でもなさそうに笑っていた。しかし私だけ違った。完全に眉間に皺を寄せて絶望を漂わせ空いた口が力無く下へ落ちていった。
そんな顔になる理由の男をチラリと見る。ロン毛ではねっ毛、イケメンで女子にも人気、しかもデカイ。明らかにクラスの中心人物であり、クラスの自己紹介でも目立っていた人物。清田信長…。
(絶対いやだ……。)
別に嫌いなわけではない。だが苦手ではある。
クラスでの自己紹介。大きい声で自信をもって「自分はすごい」ことを披露した彼。そしてその裏の席は私。
クラスを沸かせた人物の次に自己紹介をする事になってしまった私は、緊張に緊張が重なり、名前を三回噛むという最悪な自己紹介をしてしまった。
そんな経緯で、「黒歴史を作らせた男」というレッテルを勝手に彼に貼っていた。
「とりあえず今日描けるだけでいいから、さっさと始めろー。自分の名前と相手の名前も忘れず書けよー。」
ざわつく教室を厚紙を配りながら歩く先生。その声でクラスメイトはガタガタと机や椅子を移動させ、お互い向き合う形になっていく。清田信長も例外なく椅子を私と向き合うように動かしている。何も気にしてなさそうに無表情なまま男は、チラッとこちらを見ると
「名前なんだっけ。」
と興味なさげに聞いてきた。
「…国井…。」
「どーも。」
自分は名乗らないのかこの人。さも自分の名前は知っていて当然のような振る舞いをする男に少々腹が立った。
別に何を言うつもりもないが、さすがに常識が無いと思う。清田信長に追加で「無礼者」というレッテルが貼られた。
カリカリと鉛筆の擦れる音と「美形に描いてよー」「私そんなんじゃないってー」と、コソコソと声が聞こえてくる。人物画を描くのは嫌いじゃない。むしろ好きだ。しかし、相手がクラスメイト、しかも清田信長だったら話が違う。下手に描いて清田信長の機嫌を損ねるのも、美化し過ぎて女子に変な噂立てられるのも私はごめんだ。
(でも、手抜きはしたくない…どうしよう。)
うーむと悩みながらも鉛筆は動き、清田信長の似顔絵は作られていく。
(女子に疎まれない程度の出来で多少美化して…。)
2Bの鉛筆はみるみる丸くなり、右手は擦れて黒く汚れる。描けば描くほど整った顔であることがわかる。嫌だった気持ちは無くなっていき、目の前の人物と紙に集中していった。
…
チャイムが鳴った。授業が終わると同時にクラスメイトはワッと声を出して互いの似顔絵を見せ合った。
「ちょっと、私こんな鼻大きくないから!」「それ棒人間じゃねーか」「えー、可愛い!」
騒がしい声が教室で埋まる中、何も言わず席を立ち早足で先生に似顔絵を提出して、逃げるように教室から出た。廊下で安堵のため息をはく。
「はぁ、疲れたー…。」
なんとかやりきった。そもそも相手に似顔絵を見せなければいいだけの話だった。嫌に緊張してしまった自分を恥じる。
とりあえず、何事もなく終わった授業に安心しきった私は、帰りに新しい画材でも買いに行こうかと気分を踊らせた。