一番好きな花火
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立ち並ぶ露店・屋台。
祭りらしい音で賑わう通り。
そして浴衣姿の親子や、かき氷を持ったカップル、いろんな人がひしめきあっていた。
今日は夏祭り。
もうすぐ打ち上げ花火が上がるため河川敷には大勢の見物客も訪れている。
誰もが楽しみに待っている中、不安そうな浴衣姿の女がひとり。
『すみません‥‥‥通してください』
頼りなく人混みをかきわけるナナシがいた。
濃紺に蝶の模様をあしらった浴衣も、可愛くアップし、まとめられた髪もわずかに乱れ、慣れない履物に足元もおぼつかない。
『ゲンマ‥‥‥』
恋人の名を呟くがその姿は傍にはなかった。
さっきまで隣りにいたのだが、人の流れに引き離され、気付いた時には彼の姿はどこにもなかった。
『この辺には居ないのかな』
はぐれた場所もわからず、前にいるのか後ろにいるのかもわからない。
取りあえず通った所を探しているつもりだが、自分がどの辺りにいるのかも把握できていない状態だった。
楽し気な周りの雰囲気が、ナナシを一気に孤独にする。
少し歩いて流れが落ち着いたと思っていると、気付けば河川敷へと辿り着いていた。
人が多いため河川敷に沿って、人がまばらな所まで行くと、少し休もうとしゃがみこんだ。
『ゲンマも探してくれてるかな』
とは言うものの、暗闇の上こんなに人がいるのだ。現実的に考え見付けるのは難しいだろう。
『どこに居るの‥‥‥?』
ゲンマがいないだけでこんなにも寂しくて、不安で仕方ない。
ジワッと涙が滲み、視界が揺れた。
“混雑するから行かねぇ”と顔をしかめ、めんどくさそうに言っていた彼だったのに。
なんだかんだ言って、今夜は迎えに来てくれた。
ナナシの浴衣の着付けまでそつなくこなし、ゲンマ自身も浴衣に着替え、夏祭りや花火を一緒に楽しもうとしてくれた。
『ありがとう』と言うと、素っ気ない返事をしていたが‥‥‥ 照れた表情を隠そうと顔を背けたのを見逃さなかった。
そんな不器用な優しさがゲンマらしくて、すごく嬉しかった。
その時パァッと空が色付き始めた。
ドーンと響きわたる音。
真っ暗な空を明るく照らす大輪。
2人で見るはずだった花火が上がる。
きっと綺麗であろうが、ナナシはそれを見ることなく膝を抱えていた。
ゲンマが傍にいない。
一緒に楽しまなければ意味がないのだから。
見ても今は虚しいだけだ。
『も‥‥‥泣けてくる』
揺らいでいた視界が更に歪む。
涙が流れ落ち、隠すように膝につっ伏した。
声を殺し肩を震わせる。
花火の音だけが振動して体に伝わっていた。
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