スペシャリスト
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ハヤテは薬を取り出しナナシに差し出した。
『症状にあわせて調合してきました』
『‥‥‥薬嫌い』
憂鬱そうな顔をしながらポツリと彼女は呟く。
『子供じゃないんですから我慢して下さい。飲めば熱も下がって体も楽になりますから』
『そうだけど‥‥‥』
『あまり渋ってると、水を加えてペースト状にしますよ』
ややトーンを低くして笑顔で脅しかけてみると、ナナシは“それは嫌!”とフルフル首を振ってみせた。
『まだ水薬の方が飲みやすかったのになぁ。薬に詳しいんだから、病人の事考えて作って欲しいんですけどー、スペシャリストさん』
粉薬を前に溜め息をもらしながら不満をブツブツ。
するとハヤテは思い出したようにカバンを探り始めた。
『同じ成分の水薬も作ってきましたが?』
『それを早く言っ‥‥‥て、明らかに色がおかしいでしょソレ!?』
深緑に茶色を混ぜたような色の毒々しい液体に、ナナシは思わず叫ぶ。
『成分は同じなのですが、液体なので苦さは粉より感じますよ』
『ホントに毒じゃない!』
『良薬は口に苦しと言いますからね』
『良薬でも苦くないのを考えるのがハヤテの仕事でしょ!』
『効果優先です』
屁理屈ごねるナナシをジッと見つめるとさすがの彼女も黙ってしまった。
確かに文句を言っても仕方ない。
ナナシは飲み慣れない粉薬を返し水薬を手にした。
『苦しい思いしてる時に毒を飲まなきゃならないなんて‥‥‥』
弱り目に祟り目状態のナナシをハヤテは横目に眺めていた。
すっかり参ってしまっている。
たかが薬。飲めば良くなるとわかっていても嫌なものは嫌らしい。
本当に嫌そうで辛そうな彼女の姿に、何だか可哀想になってしまう。
しかし飲まなければ熱は下がらないし、体力回復にも時間がかかってしまう。
『ハヤテ、これ絶対飲まなきゃダメ?』
風邪の諸症状を網羅しているような状態の体。
平気で喋っているが、辛いはず。
ここは甘やかしてはいけない。
『駄目です』
そうキッパリ言い切った。
すると、途端にナナシは泣いてしまいそうな悲しい顔をしてしまった。
思わず視線をそらしてしまいそうになる。
好きな人のこういった表情は見たくない。
悪いことをしているわけではないが、罪悪感で胸が痛んだ。
ハヤテはナナシの手から薬を取りあげた。
『飲まなくてイイの?』
『いや、そうではないのですが‥‥‥そんな顔をされてはね。さて、どうしましょうか』
甘やかしてはいけないという想いは何処へやら。思わず苦笑して薬瓶を眺めた。
『んー、口移ししてあげましょうか?』
『え!?』
驚き赤面する彼女にまた笑ってしまう。
『冗談ですよ』
『ビ、ビックリした。そんな事されたら絶対吹き出してる』
実はやや本気だったのだが吹き出されては意味がない。
というか大惨事になるところだった、と、胸を撫で下ろす。
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