V.D-2.14
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気まずい空気が流れる宿屋の一室。
こんな時に限って空き部屋がなく同室になるとはついていない。更には角都も居ないときた。
そう、今、ナナシは飛段と部屋に2人きり。
その飛段はというと壁の方を向いて寝転がっている。
背を向けているのだが、彼は今物凄く機嫌が悪い。そのため空気がピリピリしているというか重苦しいというか。
ナナシには原因がわかっていた。
目の前のテーブルに置かれている拳大のトリュフを模した兵糧丸。
かじったあとが残っている。
今日はバレンタインデー。
目の前のトリュフもどきはナナシが飛段にあげたもの。
あげた時の喜びようから、相当チョコレートを貰った事が嬉しかったらしい。
しかし中身が実は、ほぼ漢方薬で作られた、苦い不味い兵糧丸だったのだから飛段が怒るのも無理はない。
座椅子に座り読み慣れない本に視線を落としているナナシだが、視界に入ってくるトリュフもどきと飛段の様子に、自分がした事とはいえ落ち着かなかった。
さすがにいつまでもこんな空気は嫌だ。
ナナシもほんの少しだけ悪いと思っている。
『飛段‥‥‥』
ガサガサと懐を探り、ハァと深呼吸のような溜め息のような息を吐くと、懐から取り出した箱でトントンと飛段の背中をつついた。
『ンだよ!』
『コレ‥‥‥』
『あ?コレ?』
不機嫌な顔をしながら振り向く飛段の視線の先には、葉書大の箱。
ナナシは両手で丁寧にそれを持ち差し出していた。
飛段は起き上がるとその箱を手に取った。
見覚えのある包みとリボン。
テーブルの上に置かれているトリュフもどきが包まれていたものと同じだ。
味を思い出したのか顔が苦々しく歪む。
『何だよコレ』
『開ければわかる』
『開ければ、って。包みがさっき貰った不っ味いヤツと一緒だぜ?また騙そうってか?ァア!?』
『別に騙したわけじゃないもん』
そっぽを向いてポツリと呟くナナシ。
『何か言ったかよ』
機嫌の悪い飛段だが、スルスルとリボンをほどき包みをあけた。
『やっぱチョコレートじゃねェか‥‥‥』
しかし先に貰ったものとは種類が違う。
いわゆる生チョコ。
ココアのかかった四角いチョコレートが綺麗に並んでいた。
見た感じは普通に美味しそうなのだが。
警戒してか飛段は手をつけない。
『それは安心して食べていいよ』
それを見てナナシが言う。
『嘘だったらマジで呪うぜ。今、止める奴居ねェからなァ』
『嘘じゃないもん』
脅してかかっても、全く動じない彼女を見て、これは大丈夫と悟った飛段。
ひとつ手に取ると口に入れた。
『あ、美味い』
その味に笑みがもれる。
単純だからそれだけで機嫌も直ったようだ。
それを見てナナシもホッと息をつく。
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