八月二日 2023


ふと外壁に一匹の蝉を見つけた。鳴いておらず、何となく弱っていると分かる。たった七日ほどの命で、最期の場所がこんなとこでええんか、お前は…。


──こんなとこで負けたら…


一瞬、あの日の岸本の声が聞こえた気がした。

そうやな。〝こんなとこ〟になるかは最後まで分からんもんな。

風が吹き、洗濯物が靡く。それと同時に蝉は流されるように飛んで行ってしまった。

行けるとこまで行ったらええ。ええも悪いも全部、大事なもんになる。

ふとあの蝉が、時々は思い出して頂戴的な現象だったら…なんて思ってしまった。


「お前はそんなタマや無いやんな」


ぼそりと呟くと、遠くから蝉の声がした。そういえば今日は八月二日だ。


…さっき食べたアイスの棒でも立てておこうか。



おわり
1/1ページ