『うっそ…こ、これ全部…ですか？』


名前はPCの画面に表示されている膨大な量のデータを見ている。新人の入力ミスに上司が気付き、やり直させようとしたが新人は今日体調不良で休みとのことだった。しかしこの書類は明日、取引先に提出するためそれまでに全て修正する必要があった。


「頼むよ。今日、皆出払っててさ。それに名字さんが一番処理能力あるだろ？明日までに何とか、頼む。残業もきっちりつけて良いからさ」


当たり前だろう…そう心の中で唱えながら名前は淡々と修正を始めた。



ひたすら作業を進め、気付けばあっという間に定時のチャイムが鳴った。しかしそんなのお構い無しに画面と睨めっこをする。


「名字さん」

『えっ、あ、ハイ？』


今日は殺気立った名前に話し掛ける人などいなかったが、ふと名前を呼ばれ顔を上げた。そこに立っていたのは別の課の先輩である宮城だった。


「聞いたよ。データ修正してんだろ？大変だね。ところで、飯どーすんの？」


時計を指差しながら宮城は言った。そういえばご飯のことなど何も考えていなかった。そもそも何故、宮城はこんな時間までいるのだろうか。


『えーっと…ちょっと外で買って来ようかな。宮城さんは何でこんな時間まで？』

「俺、今日夜勤なんだよ」


宮城の課は24時間体制勤務のため、数人ではあるが早出や夜勤がある。どうやら今日は宮城が一人で夜勤らしい。


『一人で夜勤って怖くないですか？』

「んー、まぁ慣れれば別に大したことないよ」


名前は宮城に密かに憧れていた。かっこよくて、オシャレで、上からも下からも慕われていて、大きな案件も任されている。素直に尊敬できる存在だった。


「何だったら俺と一緒に朝を迎えちゃう？」


イタズラっぽく笑う宮城に名前は冗談と分かっていてもドキドキしてしまう。


『そ、そんなこと言ってたら勘違いされちゃいますよ？私だから良いですけど…』


宮城は「ハハハ」と笑っていた。あの宮城が自分なんかを女性として見ている訳がない、これは冗談だ、間に受けてはいけない。そう自分に言い聞かせた。



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