おごりの春の うつくしきかな
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藤真が目を覚ましたのは20時頃だった。むくりと身体を起こし、キョロキョロと周りを見渡す。
「俺、寝ちまったのか?」
『うん。ビール一口でね。並ぶどころか、まだまだスタートラインだぞ、健司くん』
この言葉に藤真は驚いたように目を開く。
「えっ…ちょ…俺、どこまで話した?」
『〝もう弟みたいな扱いされたくない〟までかな』
するとハァーと安心したようにため息を漏らす。
「うわ、良かった…酒って怖ぇ〜」
『どういうこと?』
藤真は##NAME 1##の正面に座り直し、またしても大きな目で見つめる。
「俺は、名前に男として見られたいんだよ」
『け、健司は男でしょう?分かってるよ、そんなこと』
〝異性として〟の意味で言ったのはさすがに分かった。先程の発言からも何となくそんな展開になるような気がしていた。でもあの藤真が自分を…?と思うのが怖くて、つい逃れようとしてしまう。
「逃げんな。分かってんだろ?」
藤真が名前の手首を掴んだ。手の大きさも、腕の太さも、力の強さも、もうとっくに〝男〟だった。
『だ、だって…私5つも上なんだよ?ランドセル背負ってる時から知ってるのに…そんな…急に言われても…』
「急じゃねぇよ」
藤真はそのまま名前の腕を引き、唇が触れるか触れないかの位置まで顔を近付けた。
「俺はずっと好きだった。ランドセルを背負ってる時から、ずっとだ」
藤真の目があまりにも真剣で、そのまま吸い込まれそうになる。その目が閉じたかと思えば、あっという間に唇を奪われ、舌で口をこじ開けられる。
『んっ…ふっ…ちょ…待って…』
「もう待たねぇよ」
一体どこでこんなキスを覚えてきたのだろう。目の前にいる藤真が、自分の知っている藤真ではないような気がして、ただ為さられるがままに口を許した。
二人の吐息が小さな部屋に吐き出されてゆく。
唇を離し、再び見つめ合う。どちらの目もウルウルと熱を帯びている。
『健司…』
「何だよ」
『今日はここまで』
「えっ」
名前はスッと立ち上がり、冷蔵庫に入れたビールをプシュッと開け、グビグビと飲む。
『ふぅ……ちゃんと見るから。健司のこと。でもやっぱ、急には無理だから…今度デートしよ?もっと〝男〟の部分、私に見せて?そんでいつかさ…』
「いつか…?」
『二人で美味しいお酒が飲めるようになったら良いな』
名前は再びビールを飲もうと口に缶を近付けると、藤真がやってきてそれを手から取り、グッと飲んだ。
『えっ…ちょ…大丈夫?無理しないでよ?』
「無理してねーよ」
『はいはい』
「あっ!またガキ扱いしたな!」
名前はビールを持つ藤真の手を引き、チュッと音を立ててキスをした。
『もう充分〝男〟だと思うよ?』
藤真の顔が再び赤くなった。
きっと、ビールのせいではない。
その子二十
櫛にながるる黒髪の
おごりの春の
うつくしきかな
与謝野晶子「みだれ髪」より
おわり
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