おごりの春の うつくしきかな
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「それじゃ、飲むぞ」
『あ、待ってよ。乾杯くらいしようよ』
「何に乾杯すんだよ」
『そりゃハタチの記念に、だよ。はい、乾杯!』
カチッと小さく缶がぶつかる音が鳴った。暑い外を通ってきたせいか缶が汗をかいていて、滴るそれらが交わり大きな滴となってテーブルに水玉模様を描く。
二人は口に缶をあて、ビールを飲んだ。藤真はすぐに口を離したが、名前はゴクゴクと喉を鳴らして飲む。ある程度のところで口を離し、喉を通過した爽快な余韻を楽しみながらテーブルに缶を置く。
『ハァ…美味し…まさか健司からお酒に誘われるとはねぇ…』
目線を向けると、藤真の頬はほんのり赤くなっていて、ぽーっとしている様子だった。
『け、健司?大丈夫?』
名前を呼べば、長い睫毛の瞳がいつもよりウルウルとしていて、名前を捉える。もしや、たった一口のビールで酔ってしまったのだろうか。藤真のこんな姿を見たことがない名前は少し戸惑った。
「やっとだ」
『え?』
「やっとここまで追い付いた」
『な、何が?』
藤真はさっきから目を逸らさない。酔っているのだろうが、どこか真剣さも感じ取れる。
「俺が名前の身長抜いた日のこと、覚えてるか?」
『あ、うん…確か健司が高校生の時?』
「やっと追い付いたって思ったんだ。でもその時名前はもう父さんたちに混じって酒飲んでたんだよ。また俺だけできないことがあるんだって思った。俺らが一緒だったのは小学校のたった一年だけ。中学も高校も大学も全部一緒じゃない。全部名前が先に行っちまう。だから俺がハタチになって、やっと〝大人〟として並べた」
そんな風に思っていたのか、と名前は驚いた。確かに背を越された辺りから何となく張り合ってくるような、比べているような気がしていた。しかし何故なのかは分からなかった。
『な、何で並びたかったの…?』
「もう弟みたいな扱いされたくねーからだよ」
子ども扱いしてきたつもりは無かったが、そこまで嫌に思われていたとは気が付かなかった。名前は何だか申し訳なくなり、ビールをグイッと飲み干し、謝ろうと再び藤真の方を見ると、机に突っ伏して眠っていた。名前は思わず笑ってしまう。
『ビール一口で寝ちゃう大人か…まだまだだぞ、健司』
そっとタオルをかけ、起きるまでそのままにしておくことにした。
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