君が好きな僕の苦手な物を、嫌いになれなくなった。
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名字さんのアパートは本当にすぐ近くにあって、まだ時間が早いためか車のエンジン音や人が話す声が外からかすかに聞こえた。
この部屋には、俺と名字さんしかいない。
薄っすらとコーヒーと煙草の香りがする。
彼女が好きな物に全身包まれているようで、嫌なことや悲しいことがどうでも良くなっていくような、身体が火照るような、不思議な感覚だった。
「名字さん、俺さ…」
言いかけると、名字さんは俺の手を取り指を絡めた。触れたところが熱くて、溶けてしまいそうだ。あぁ、やっぱり俺たちは……
『言葉は要らないの。それより、早く…』
潤んだ瞳で俺を見つめ、キスをせがむように顔をこちらに向けている。こんなことをされて我慢なんてできるはずもない。俺はゆっくりと顔を近付け、触れるだけの優しいキスを落とした。そして唇を一度離し、ほぼ触れているような距離で言葉も落とす。
「好きだよ」
やっと言えた。本当は喫煙所で話したあの時からもうとっくに好きだった。飲み会で仲良くなろうだなんてちょっとダサかったかな…でも今、全てが俺の腕の中にある。
昨日までは、お互いの気持ちを分かっていても踏み切れずにいた。でも君がこんなにも急かすから、こんなにも求めるから、答えなきゃいけないと思った。
「ずっと欲しかったんだよね?」
『……神くんも、でしょ…』
再び唇が重なる。
そうだ。俺も同じだ。早く欲しかったんだ。
本当は煙草のにおいも苦いコーヒーも苦手だったはずなのに、どうしてかこの部屋に漂う香りは嫌ではない。何か秘められているような、脳が麻痺するような…ダメだ、よく分からない。
君が好きなものだから、嫌いになれないのかなぁ。
全ての謎が解けるのは、君が嘆いていたこのつまらない世界が終わる時なのかもしれないな。
その日が来るまで、どうか君と笑っていられますように……。
おわり
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