〝偶然〟に溺れる
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『仙道くん、スーパーで買い物なんてするんだね。確か実家だったよね?』
「うん。まぁ、ちょっとね…」
仙道くんはいつもこうしてニコニコと微笑み、そしてたまに言葉を濁すことがある。本当に不思議な人だ。彼を見ていると〝偶然〟が〝仕組まれた現実〟なのではないかと、たまに分からなくなることがある。
「名前ちゃんは一人暮らしだよね?俺にも手料理食べさせてよ』
『はいはい。その内ね』
「うわ、遇らわれた。本気なのに」
仙道くんは肩を竦めてヘラヘラと笑っている。悪い人ではないことは分かるが、この何とも言えない不思議な魅力が私は少し怖かった。
溺れたら、抜け出せなくなりそうな気がするから。
そんなことを考えながら私は無意識に仙道くんをジーッと見ていた。
「名前ちゃん、素顔だとちょっと幼く見えるね」
私はスッピンであることを忘れていて、咄嗟に俯いた。
『あ、あんまり見ないで。恥ずかしい…』
「俺は、こっちの方が好きだけどな」
またそういうことを言う…と内心思いつつ、喜んでいる自分がいることもまた事実だった。あぁ、こうやって何人の女の子を魅了してきたのだろう…恐るべし、仙道彰…!そう心の中で呟きながら、このまま長居してはマズいと思い『それじゃ』と言って歩き出した。途端に仙道くんの長い腕が伸びてきて、私の手首をしっかりと掴んでいた。
「待った」
『な、何?』
仙道くんは体制を低くして、私の顔を覗き込んでいる。
「その素顔、俺のモノにしたくなっちゃった」
『は?!な、何言って…』
「もう誰にも見せないでよ。ね?」
ニッコリ微笑むその優しい顔と、いつもより少しだけ低い声が私の心を捉えて離さない。私は黙ってただコクリと頷くことしか出来なかった。
そして気付けば会計を済ませ、仙道くんに手を引かれながら私のアパートに向かって歩いていた。
いつまでが偶然?
どこからがレールの上?
考えれば考える程分からないけれど、それはもう溺れている証だと気が付いた。
玄関のドアがガチャンと音を立てて閉まる。
買い物袋が床にドサリと置かれる。
仙道くんの手が私の頬に触れた瞬間、全てがどうでも良くなっていった。
「ずっとこうしたかった」
もしかしたら、そもそも偶然なんて無かったのかもしれない。
私がこの世に生まれてきたことさえも──
おわり
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