全部、眩しかった。

国体緒戦は難なく突破し、その勢いで2回戦、3回戦と進み、ベスト8が確定した。明日勝てば、準決勝に進む。


「何や、あっという間にここまで来たな」

「インターハイの時みたいに、プレッシャー無いからちゃう?」

「……そうかもしれへんな」


3人は宿泊先のホテルのテラススペースにいた。秋のせいか吸い込まれそうな程、夜空が深かった。


「まだ終わりたないな」


南がボソリと呟いた。意外な言葉に岸本と土屋は顔を見合わせる。


「南、どうしたん?らしくないこと言いよる」

「…何とでも言え。思ったこと素直に言うただけじゃ」


岸本は少し心配したつもりだったが、南の〝素直〟という言葉に成長と感動すら覚えた。土屋は微笑み、背伸びをした。


「ほな、明日パス出すで〜!走ってや〜!」

「言われんでも走るっちゅーねん」

「お前こそ、抜かれんなよ」


土屋がおちゃらければ、岸本がつられ、南が冷静につっこむ。

ずっと、こうしてきた。

ずっと、こうしていたい。

でも〝ずっと〟が、いつか形を変えることは分かっている。

だから、大事なんだということも。



冷たい風が吹き抜けた。




試合は劣勢だった。やはりここまでくると、そう簡単に勝てない。

土屋にボールが渡る。

相手に分からないよう、位置を確認する。


「いくで〜!フォーメーションAや!」


チームメイトは、フォーメーションA…?と一瞬戸惑ったが、南と岸本はもう走り出していた。相手チームがすかさず追いかけるが、2人の速さに追いつけない。

岸本が右手を出すと、土屋から吸い込まれるようにパスが出される。シュート体制に入りつつ、隙間を見つけ、背後の南にボールを渡す。

シュッと音を立て、空気を切りながらボールが放たれた。加法定理の問題に出てくる円なんかより、ずっと美しい弧を描いていた。


一瞬、世界が止まる。


そして、ボールは鮮やかにゴールへと吸い込まれていった。


土屋と岸本が南の元へ駆け寄る。


「よぉぉぉっしゃ!いける!いけるで!」

「何やねん〝フォーメーションA〟って」

「何やねんって言いながら、ちゃんと走っとったやん」

「アホ、何年一緒におると思てんねん」

「そこは彼女より長いからな」


土屋の口元がニヤリと上がった。


「浮気や〜。言うたろ〜」

「「何でやねん!!」」



今しかない

使い切りたい

黄金色に咲く春を




結局、最後は追いつけず大阪チームの国体はベスト8で幕を閉じた。




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