全部、眩しかった。

── 9月


「なあ、加法定理って何の為にあるん?」

「え、岸本、数学?理系志望なん?」

「いや、文系やけど模試は数学あるしな」

「うるさいねん。もう少し静かに勉強できんのか」


インターハイを終えた南、岸本、土屋の幼なじみ3人は部活を引退し、本格的に受験勉強に取り掛かっていた。1人だとサボりがちになるため、毎日誰かの家に集まって勉強をしている。

偶然にも引退と同時に3人にそれぞれ彼女ができた。南は部活のマネージャー、岸本は美術部員の後輩、土屋は委員会の後輩だった。


「それにしても同じタイミングで彼女ができるって、僕たち仲良過ぎひん?キモいねんけど」

「キモい言うな。それだけ今まで部活一筋やったってことやん。あ、でも南は部活の子やから公私混同やな」

「別に部活中に何かしとった訳やないやん」

「え〜、じゃあ部活やない時はどんなことしとったん?」

「ウルサイ。集中しろや」


受験勉強と恋愛、それぞれが上手く折り合いをつけて両立できていた。また、3人の関係もライバル校という意識が抜けたせいか、以前に比べて良くなったようだ。かつてこんなにも穏やかな日々を送ったことがあっただろうか。3人はそれぞれ、幸せだった。



ふと携帯が鳴り、土屋は画面を見る。


「え…うわ…」

「どうしたん?」

「国体、選ばれた…」

「えっ…ホンマか?」

「あ…2人も選ばれとるで。ほら」


土屋は嬉しそうに携帯の画面にある選手名簿を見せた。


「何で土屋がキャプテンやねん」

「大阪1位のキャプテンやからちゃう?」

「まあ何はともあれ、そうと決まれば練習や!公園行くで!勉強なんかやってられへんわ!」


3人はペンとノートを投げ出し、いつもの公園に向かった。幼い頃からずっと時間を共にしてきた場所だ。




「ハァ…ハァ…もうアカン…」

「…やっぱまだ暑いな」

「勢いで来てもーたから、タオルとか飲み物用意してへんかったな…今日はもう終わろか」


もう夕方だというのに、太陽は容赦無く光と熱をもたらす。木陰に吹き込む風が心地よい。


「あれ?僕らってこの後、彼女と約束してるやんな?」

「そうやで。シャワー浴びな」

「ほな、明日は直接ここ集合な。合宿もあるみたいやし、気合い入れな!」


それぞれ家路に着きながら、思った。


やっぱりバスケが好きだと。


3人でするのは、もっと好きだと。



それから程なくして合宿が始まり、他のメンバーとの連携、調整も万全となった。受験勉強だけをしていた時よりも、ずっと時間の流れが早いのが不思議だった。





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