ラピスラズリの向こう側
NAME CHANGE
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『岸本先輩、絵のモデルになってくれませんか?』
昼休み、焼きそばパンを食べる岸本の元に見知らぬ女子生徒がやって来てそう言った。予想外の言葉に、教室中の視線が集まっている。
「プフーッ!岸本がモデルやて!」
「南と間違えとんちゃうの?」
クラスメイトは言いたい放題だったが、それを遮るように岸本の大きな声が響く。
「待て待て。キミ、なかなか見る目あるな。名前は?何年生?」
『2年4組、名字 名前です。私、岸本先輩の横顔が特に綺麗や思うんです!』
少し興奮気味に話す名前を見て、岸本はまんざらではなかった。そして周りのクラスメイトも彼女の真剣さを感じ、それ以上からかうことは無かった。
インターハイに向け猛練習をする日々だったため放課後は時間が取れず、モデルは昼休みにすることになった。昼食を食べた後、岸本は美術室の用意された椅子に座り、その横顔を名前が描いていく。
初めはぎこちなかったものの、慣れてきた頃にはよく話すようになった。今日は最近岸本が行った、カラオケ合コンの話をしている。
「ほんで結局、南ばっかモテてん。アイツ、ああ見えて歌ウマいから、女の子がキャイキャイ言うとったわ」
『南先輩、綺麗な顔してますもんね。私の周りの子もかっこいいって騒いでますよ』
岸本は面白くなかった。他の子はさておき、名前が南を褒めたことが少しつまらなく、つい思ってもいないことを言ってしまう。
「…ほんなら、南を描いた方がええんちゃうの?」
『…言いましたよね?私は岸本先輩の横顔が綺麗やと思うって』
キャンバスにペンが擦れる音が淡々と響く。
『先輩はどうして髪をのばしてるんですか?』
「…願掛け、やな」
『必勝祈願?』
「まあ、そんなトコやな」
本当は〝北野さんが戻ってくること〟が叶うまでの願掛けだったが、そこまで名前に言っても良いものかどうか、岸本は言葉を濁した。
『言わなくても大丈夫ですよ。凄く大切な願掛けなんでしょうね』
「…何でそう思うんや」
『表情が変わりましたもん。その思いも、この絵に表現できたら良いな…』
正面の硝子に映る自分の表情は全く変わっていないように見えるが、横から見てもその変化が分かるとは…名前は感性豊かで、住む世界が違うと岸本は思った。
「この絵、完成したらどうするん?」
『うーん…まだナイショです』
名前の瞳に映るのは、キャンバス上の自分だった。岸本は何だか心の中にスッと風が吹くような感覚になった。
それから数日経ち、残りの色塗りはモデルがいなくても何とかやれるということで、岸本の約2ヶ月に及ぶモデル生活は終わった。そして、完成したら必ず見せて貰う約束をした。
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