不思議な世界のおとぎ話は、やっぱりハッピーエンドで。
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インターハイはまさかの緒戦敗退だった。誰もが予想しなかった結果に、言葉も出なかった。
空港からバスで学校に戻り、校門を出ると名前が立っていた。
『おかえり』
「…ただいま」
正直、今は慰めの言葉すらいらない。まだ悔しくて、湘北の10番の最後のシュートが頭から離れない。
無言で名前と並び、歩いて帰る。俺の考えをやっぱり察しているのか、名前は何も言わず、結局分かれ道まで一言も話さなかった。
挨拶くらいはしなければと立ち止まり、名前の顔を見た途端、その大きな目からポロポロと涙が溢れてきた。
あの日のシャボン玉みたいで、綺麗だと思った。
「な、何で泣くんだよっ…!」
『……っ…悔しくて…』
「え?」
『栄治がどんな想いでこのインターハイに臨んだか知ってるから……悔しい…!』
名前は自分のことかのように、本気で泣いていた。そしてこの時俺は、もう一生名前にこんな顔をさせてはいけないと思った。
「優勝できなかったけどさ…教えてよ。何でもう歳を取るのやめるって言ったんだ?」
『…歳取るのに飽きたから』
「は?」
『飽きちゃったの』
「…お前、そんなマヌケな理由で誤魔化すなよっ…!」
俺はチームバッグを投げ捨て、名前を抱き締めた。
「嘘言うなよ」
『…何で分かったの?』
「お前のことは何でも分かるんだよっ!」
そう言うと、名前は俺の背中に腕を回し、ギュッと力を入れた。
『……誕生日が来たら、栄治アメリカに行っちゃうでしょ。一番近くにいる今がずっと続いて欲しいから。でも困らせちゃうから、言えなかった』
「…困んねーよ、バカ。俺はちゃんと名前を迎えに来るって決めてんだから」
名前は俺の胸に顔を埋めたままだった。たぶん泣いているんだろう。
「もう泣くなよ。すげぇ選手になって帰ってくるからさ!」
『泣いてないよ』
「え…」
顔を上げた名前は、本当にもう泣いていなくて、それはそれは嬉しそうにニヤニヤしていた。その顔を見て、俺の口元は緩みっぱなしになる。
まだまだ、彼女の不思議な世界は解明されていないことの方が多いのかもしれない。
『それじゃあ、歳を取るのも悪くないかもね。プレゼント、とびきりのやつおねだりして良い?』
「……図々しい奴」
俺たちの会話を河田さんあたりが聞いたら、意味が分からないと言うかもしれない。
それでも良い。
俺たちだけの不思議なおとぎ話は、2人が分かり合えていれば良い。
今日みたいにつまづく日があっても、名前となら全部ハッピーエンドに変えられる。
〝2人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ〟ってな。
おわり
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