褪せない
NAME CHANGE
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そして今日、俺たち3年生は引退の挨拶を終えた。いつかは終わりがくると分かっていたが、いざ目の前にすると鼻にツンとくるものがあった。
校門の前でいつも通り皆と別れ、年末の寒空の下を一人歩いていると遠くの方に人影が見えた。手に持っている何かを思い切りブンブンと振り上げている。
だんだん近付いて行くと、振り上げられている物を見て立ち止まってしまった。
〝紫色のスターチス〟だった。
そしてそれを持っている人の顔を見て、一目で名前だと分かった。幼い頃の面影を残しつつ、すっかり普通の女子高校生に成長していた。短く切りそろえられた黒髪が冬の澄んだ空気の中で艶々と輝いている。
『…透くん、だよね?』
名前は嬉しそうにこちらに向かってきた。
「名前……何でここに?」
『年賀状の後の電話まで待ちきれなくて来ちゃった。どうしても引退の日にコレを渡したくて、透くんのお母さんにこっそり電話で聞いちゃったんだよね』
そう言って、名前は俺の目の前に花束を差し出した。
『透くん、3年間お疲れ様でした』
「…ありがとう。これ、暑中見舞いに載せてたスターチスだよな?ん?ドライフラワーにしたのか?」
『スターチスはね、ドライフラワーにしても色褪せないのが特長なんだって』
確かに遠くからでもよく分かるくらい、鮮やかな紫色をしていた。
『だからスターチスの花言葉ってね〝変わらぬ心〟なんだって。どうしてもこれを、引退する日の透くんに渡したかったの。私はこれからも変わらずに透くんを応援したいから』
「変わらぬ心…か。偶然だけど、俺にも変わらない気持ちがあるんだ」
『へー!何?』
「名前が好きなんだ」
名前は驚いたようで、ぽかんと口を開けていたが、徐々に頬が薄紅色に染まっていった。
『…私も今日、同じこと伝えようとしてた。透くんの口から聞けて、嬉しい』
冬の陽が差し込み透き通るような白い肌、俺を見つめる黒い瞳、俺の名前を呼ぶ桃色の唇…
その全てが美しく、愛おしい。
「綺麗だ」
『えっ…』
「花のことじゃないぞ?」
クスリと笑えば、照れくさそうに名前も笑った。
引退の日、スターチスのように鮮やかに澄み渡る未来が見えた気がした。
その未来でも名前が今日のように、笑っていますように。
おわり
あとがき→
校門の前でいつも通り皆と別れ、年末の寒空の下を一人歩いていると遠くの方に人影が見えた。手に持っている何かを思い切りブンブンと振り上げている。
だんだん近付いて行くと、振り上げられている物を見て立ち止まってしまった。
〝紫色のスターチス〟だった。
そしてそれを持っている人の顔を見て、一目で名前だと分かった。幼い頃の面影を残しつつ、すっかり普通の女子高校生に成長していた。短く切りそろえられた黒髪が冬の澄んだ空気の中で艶々と輝いている。
『…透くん、だよね?』
名前は嬉しそうにこちらに向かってきた。
「名前……何でここに?」
『年賀状の後の電話まで待ちきれなくて来ちゃった。どうしても引退の日にコレを渡したくて、透くんのお母さんにこっそり電話で聞いちゃったんだよね』
そう言って、名前は俺の目の前に花束を差し出した。
『透くん、3年間お疲れ様でした』
「…ありがとう。これ、暑中見舞いに載せてたスターチスだよな?ん?ドライフラワーにしたのか?」
『スターチスはね、ドライフラワーにしても色褪せないのが特長なんだって』
確かに遠くからでもよく分かるくらい、鮮やかな紫色をしていた。
『だからスターチスの花言葉ってね〝変わらぬ心〟なんだって。どうしてもこれを、引退する日の透くんに渡したかったの。私はこれからも変わらずに透くんを応援したいから』
「変わらぬ心…か。偶然だけど、俺にも変わらない気持ちがあるんだ」
『へー!何?』
「名前が好きなんだ」
名前は驚いたようで、ぽかんと口を開けていたが、徐々に頬が薄紅色に染まっていった。
『…私も今日、同じこと伝えようとしてた。透くんの口から聞けて、嬉しい』
冬の陽が差し込み透き通るような白い肌、俺を見つめる黒い瞳、俺の名前を呼ぶ桃色の唇…
その全てが美しく、愛おしい。
「綺麗だ」
『えっ…』
「花のことじゃないぞ?」
クスリと笑えば、照れくさそうに名前も笑った。
引退の日、スターチスのように鮮やかに澄み渡る未来が見えた気がした。
その未来でも名前が今日のように、笑っていますように。
おわり
あとがき→