(前編)
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数ヶ月かけて取ったデータを会社に送り、それに基づいてできた試作シューズがとうとう届いた。
『流川くん、試作シューズ届いたよ。今まで集めたデータから流川くんのパフォーマンスを最大限に発揮するために作られた物だよ』
手渡すと、流川くんはシューズをジロジロ見ていた。
「どうも」
最初は何を考えているのかさっぱり分からなかったが、今では喜んでいることが分かる程になった。
早速、試作品を履いた流川くんのデータを取った。流川くんは早く軽やかに美しく動く。最早、数字では表せないこの圧倒的凄さに私はただただ驚き、感動するばかりだった。
これで私の役目は終わった。
会社から日本に帰国するよう、連絡があった。
もう流川くんには会えないのかな…
そう思うと急に胸が締め付けられた。この数ヶ月間、毎日顔を合わせてきたのに…。流川くんに会う前、私はどんな風に生きていたっけ…。
気持ちの整理がつかないまま、流川くんとチームスタッフに挨拶する時間になってしまった。
「わざわざこちらまでお越し頂いて本当にありがとうございました」
『いえ、こちらこそお世話になりました。今後とも宜しくお願い致します』
「ほら、楓!お前もちゃんと挨拶して!」
「…悪い、ちょっと外して欲しい」
流川くんに促され、スタッフは少しニヤニヤしながら部屋を出て行った。今、この部屋には私と流川くんしかいない。
「名字さん、明日からもういねえの?」
『うん。明日、日本に帰るよ』
「…困る」
『えっ…?』
「…アンタがいないと調子が出ない。風邪だって分かることもできねぇ」
『だ、大丈夫だよ。アメリカ支社がサポートしてくれるし』
「違う。気付け、どあほう」
流川くんが真っ直ぐに私を見つめている。
もしかして流川くんが言いたいことって……
期待と不安が入り混じる。
『…ちゃんと言って?』
私も流川くんを真っ直ぐ見つめた。
「……名前が好きだ」
その言葉が発せられた瞬間、私は流川くんの腕の中にいた。流川くんの鼓動が聞こえる。いつも見ていたデータよりずっと速い気がする。
『ありがとう。嬉しい。…でもこのまま残る訳にはいかない。一応仕事で来てるしね。明日帰るけど…私、必ずアメリカに戻ってくる。だからそれまで待っていて』
「…分かった」
流川くんが私を抱き締める力が強くなる。私も流川くんを強く抱きしめた。
本当はずっとこのままでいたい。
でもあなたとの未来が見えたから、明日はきっと泣かずに搭乗ゲートを通れる気がする。
待っていて。
チョコレートじゃなく、あなたと一緒に眠れるその日まで。
前編おわり