一厘未満
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あてもなく進むと公園があり、とりあえずベンチに座った。
土屋くんと私の手は繋がれたままだ。
『土屋くん、ゴメンな。嫌な思いさせてしまって』
「僕こそゴメン。余計なことしてもうたかな」
一見優しいその言葉にも、やっぱり何か違和感があった。
『…土屋くん、ホンマに思ってること言うて』
「え…?」
『今日ずっと思ってたんやけど…土屋くん、思ってることと全然ちゃうこと言うてるんやないの…?』
そう言うと、土屋くんはライブハウスにいた時と同じように目を見開き、吹き出して笑った。
「名前ちゃん、凄いな。こんなん初めてや」
土屋くんは少し俯いて話し始めた。
「僕な、優しそうとか可愛らしいとか、小さい時からそんなん言われてばっかりやってん。そのせいか、ホンマに思ってること言うと引かれてしまって…。なんちゅーか…周りのイメージ通りに生きなアカンというか……」
『…ここには誰もおらへんし、思ってること言うてもええよ』
私の手を握る土屋くんの力が強くなる。
「…僕は…ホンマに彼女のこと好きやってん…例え彼女がウソの僕を好きだったとしても構わへんかった……ホンマに泣きたい時って泣けへんもんやな…」
土屋くんの言葉に、もう違和感は無い。
どうして今日、お互い浮気現場を見てしまったのだろう。
どうしてあのライブハウスに入ったんだろう。
どうして土屋くんが本音で生きていないと分かってしまったのだろう。
運命…
そんな言葉では言い表せない程の確率で、私たちは出会ってしまったのかもしれない。
もう彼氏の体温も思い出せないくらい、私の中は土屋くんでいっぱいになってしまった。
『土屋くん…お願いがあんねんけど』
土屋くんの手を握り返し、自分の膝の上に置いた。
『私、ベッドと布団一式買い替えたいねん。今度一緒に行かへん?』
「…そうやなぁ。僕も寝ることになるかもしれへんしなぁ」
イタズラっぽく笑う土屋くんに、思わずドキドキしてしまった。
あのバンドが歌っていたように、世界は悲しみが9割で喜びが1割でできているならば、今、私の膝の上で繋がれているこの手の中には物凄くレアな喜びが詰まっているのかもしれない。
もしかしたらそれを〝愛〟と呼ぶのだろうか。
信じてみよう。
そして、大切にしよう。
運命をも越える、愛というものがあるならば。
(何でライブハウスで私に話しかけたん?)
(泣いてる女の子がおったから、しけ込むチャンスや思って)
(…素直でヨロシイ)
(えへ★)
おわり
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