一厘未満
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妙な連帯感が生まれた私たちは、今日はとことん飲もうということになり、ライブハウスのドリンクカウンターに移動した。とにかく濃い目でと注文し、あっという間に酔いが回った。
私の方は怒り、悲しみ、未練がタラタラで少し湿っぽくなったりもしたが、土屋くんは割と平然としているようだった。
『でも可愛い人やったなぁ。あんな本命がおるのに、何で私なんかと…』
「名前ちゃん、充分可愛えやんか」
私は何となく気付いていた。優しい口調とは裏腹に土屋くんの目が笑っていないし、どこか言葉尻にトゲがある。
もしかして土屋くんは平然としているフリをしているだけなのではないか。
自分ばかり愚痴をこぼしていたことが申し訳なくなり、私は少し黙り込んでしまった。
「名前ちゃん、大丈夫?さすがに飲み過ぎやんな。そろそろ帰ろか」
『あ、うん…そうやな。行こか』
私たちは冷房が効き過ぎていた地下から地上に出た。ジメジメした空気が肌に纏わり付く。
「駅まで送るわ」と歩き出した土屋くんが急に目の前で立ち止まった。
『…土屋くん?』
土屋くんの視線の先には、昼間、土屋くんの彼女と楽しそうに歩いていた私の彼氏が立っていた。
「名前…?こんな所で何してんねん。しかも、そいつ誰?」
彼は不機嫌そうにこちらに近付いてきた。そして私の腕を強く引っ張った。
「ほら、帰るで。一丁前にナンパでもされたんか?」
『痛っ…ちょ…離してよっ……』
「…離したって下さい。アンタには名前ちゃんに触れる資格は無いです」
土屋くんが反対の腕をグイッと引き、私は彼氏から引き離された。
「何やねんそれ。俺は彼氏やぞ?お前こそコイツに触れる資格なんか無いやんけ」
彼は強い口調で土屋くんに迫った。お酒が入っているからか、上手く頭が回らない。どう回避すべきか考えていると、土屋くんが静かに口を開いた。
「……くせに」
「は?」
「その手で、僕の彼女に触れてるくせに」
その後、誰の口からも言葉が出てこなかった。道行く人の楽し気な声と、車のエンジン音がずっと遠くの方から聞こえてくる。
掴まれている腕が熱くて、ふと土屋くんを見るとグッと何かを堪えているようだった。
私は堪らず、土屋くんの手を引いて歩き出した。
「お、おい…名前…」
『…さよなら。あの子とお幸せに』
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