Couvercle
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ふと、エイジが私を呼ぶ声が聞こえた気がした。振り返った先に見えたのは灰色のコンクリートだけで、ぽつぽつと水玉模様が浮かび上がってきた。通り雨だろうか。急いで屋根のある場所に避難したが、少し濡れてしまった。
ハンカチで濡れたところを拭いていると、エイジが試合後にタオルで汗を拭いながら私の名前を呼ぶ光景が目に浮かぶ。
気付いてしまった。
結局私は、忙しさを理由にエイジから逃げていただけなんだと。
名前の漢字も忘れたのでは無く、忘れようとしていただけ。
本を読みたいのでは無く、栄治以外のことを考えて気を紛らわしたかっただけ。
強制的に自分の気持ちに蓋をしていたが、私は栄治を忘れることができていないのだと、通り雨にさえも見透かされているのだ。
涙が頬を伝う。
濡れた髪を拭くフリをして、そっとハンカチで拭った。
「なーに泣いてんだよ」
『えっ…嘘……なんで…?』
あまりにも栄治のことを忘れられないからか、目の前に立っている人物が自分の妄想が生み出した産物なのではないかと思い、私は立ち尽くした。
しかしギュッと抱きしめられた時の体温で、これは現実なんだと実感した。
「やっと帰ってこれた。一時的だけど…。んで、一番最初に名前に会いたかった。俺は別れても、ずっとずっと忘れた日は無かった」
ああ…栄治も私と同じだったんだ…。
『私、栄治のこと忘れられないって、今気付いた所なんだよね』
「え?今?!どういうこと?」
自然と笑みが溢れた。こういうちょっとおバカな所も大好きだったと思い出したから。
「……やり直そ?」
『…うん』
まるで昨日別れたばかりのカップルかのような台詞で、私たちの恋は再び始まった。
次はミルクチョコレートみたいな恋にしよう。甘くて、とろけてしまいたの。
あなたが側にいてくれるなら、私は虫歯になっても構わないから。
おわり
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