私の知らないあなた
『ホント藤真には敵わないなぁ〜。まぁそういう所が好きだったんだけどねぇ』
これが私の精一杯。これ以上言うと、時間をかけて抜け出した後悔にまた包まれてしまう。
あー、私の言葉はちゃんと皮肉になってるのかな…。
なんて思っていると、藤真はいきなり私の鼻をギュッとつまんだ。
「相変わらず素直じゃねぇよな〜……ま、そういう所が好きだったんだけどな」
『…は?……え?』
待って、今のは幻聴…?あれ?もしかしてこの再会自体が妄想の産物…?
「何だよそのリアクション。てっきりもっと騒ぐかと思った」
『ま、まぁ私もそれだけ大人になったってことだよっ!』
「ふーん…じゃあこんな再会運命かも、なんて思ってたのは俺だけなのか…?」
『えっ…』
「俺は全然変わってねーんだけどなー」
藤真の大きな目に見つめられる。あの頃よりももっとかっこ良くてどうにかなってしまいそう…。
「今度はちゃんと貰えるように、俺も頑張らねーとな」
『え…それってどういう……』
「…運命なんだったら、好き〝だった〟で終わらせたくねーじゃん」
そう言うと藤真は顔を真っ赤にしながら、ジョッキの中に残っているビールを一気に飲み干した。
こんな藤真、初めて見た。きっとまだまだ知らない一面があるのかもしれない。
『藤真って案外ロマンチストなんだね』
「…うるせー」
酔うとこんな風になるんだ、ということも初めて知る。
もっと知りたい。私の知らないあなたを。
離れていた時間が埋まっちゃうくらいに。
おわり
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