私の知らないあなた
『は?!うそ…藤真…?!』
新しい取引先との商談で、受付に迎えに来たのは高校の同級生の藤真健司だった。お洒落で品のある広いロビーに私のマヌケな声が響き渡る。思いがけぬ形で私たちは久しぶりの再会を果たしたのだった。
「同姓同名だなとは思ってたけどまさか本人だとはなー」
商談後、直帰予定だった私はそのまま藤真に連れられて居酒屋に来ている。目の前で美味しそうにビールを飲む姿を見て時の流れを痛感する。でも目線の配り方や笑顔はあの頃と変わっていなくて、そのちぐはぐさにややついていけない。
暫く近況報告をし合ってしたが、自然と高校時代の思い出話になっていく。
「そういやバレンタインの時、俺が何か食うもんないかって聞いたらお前がチョコくれたの覚えてるか?」
唐突な話題に一瞬動きが止まる。
『あー……そん、なことあったねぇ〜』
なんてとぼけたけれど、本当ははっきりと覚えている。だってアレは…
「本当はあれ、俺のために用意してたやつだったろ…?」
そう、アレは私が高校最後のバレンタインに藤真に渡そうと用意してきた物だった。でもどうしても渡せなくて、食べ物が無いかと聞かれた時に綺麗な包装を解いてたまたま持ってました感を装って渡したのだ。当時の私はどんな形であれ、藤真が自分のチョコを受け取ってくれたのだから良しとしよう。そう無理矢理納得することにしたが、やっぱり後悔に苛まれた。
結局、想いを告げられずに卒業してしまい、あの後悔はずっと胸の奥に閉まっておいた。それなのに目の前のこの男ときたら、全部お見通しだったとニヤニヤしながらこちらを見ている。
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