初恋が染まる日
幸せな日々が続いていたある日、彼女の口から想像もしない言葉が出てきた。
「お父さんが転勤で、引越すねん」
「…どこに?」
「北海道やって」
中学生の2人は無力だった。引き止めることもできなければ、自分だけ残ることもできない。もう恋人ではいられないんだ、とお互い分かっていた。
「私も手紙書いてきてん。読んでな。ホンマにありがとう。バイバイ。」
これを最後に、彼女と会って話すことは無かった。
南が手紙を読んだのは、彼女が引っ越してから数ヶ月経った頃だった。そこには南も手紙に綴った「愛してる」の文字が記されていた。
今すぐにでも彼女の元に行きたい、でもどうすることもできない。そんな想いが雪のようにどんどん心に積もっていき、溶けた雪が涙となって南の頬を濡らした。
南は、彼女に貰った手紙をビリビリに破いて捨てた。春の風に舞う花びらのように。
雪が溶けたのだから、次は春が来なければならないと思ったからだ。
これがセピア色の初恋の思い出だ。
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