金木犀が香れば、


十月に入り、大学で久しぶりに彼を見た。夏休み前は半袖を着ていたが、今はもう長袖のシャツを着ている。何だか遠い存在になってしまったようで心がざわざわと忙しくて、金木犀の香りに癒されようとこの間買ったハンドクリームを塗った。甘い香りがぽわぽわと飛んできて、とても心地が良い。

そういえば、今日は十月十五日だ。



「なんやええにおいせぇへん?」


彼と話している一人がそう言った。


「南の誕生日やから、誰かサプライズとか仕掛けとるとか?」


誕生日……十月十五日……金木犀……


待って待って…いくら何でも出来すぎている。これはきっと夢に違いない。

軽くパニックになりながらも思わず視線を送ってしまったようで、彼と目が合ってしまった。どうして良いか分からず、どうしていたのかもよく分からないけれど、彼が面白そうに笑った。

それは初めて見る笑顔だった。

ほら、やっぱり好き。

胸の奥がギュッと締め付けられた。



金木犀が香れば、私は彼を想う。


『お誕生日おめでとう、南くん』


そう小さく呟いた。



終わり


Happy Birthday Minami-kun. The scent of osmanthus reminds me of you.
2023/10/15 ぱこ



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