空耳ラブコール


急いで口を閉じると、藤真くんは声を出さずに口だけを動かして何か言おうとしていた。王子様なんて言われている整った容姿の彼は、こんな口をパクパクしているのでさえもかっこ良く見えてしまう。口元に集中しなければいけないのに、いや、集中はしているんだけれど集中出来ないというか…。とにかく何かを伝えようとしてくれているのは分かるけれど、全然分からない…!!

そんな私の様子に気付いたのか、藤真くんは席を立ち、私の近くまでやって来たのだ。私は周りに気を使い、ノートに文字を書いて藤真くんに伝えることにした。


ごめん…何て言ってたの?


そう書いたノートを見せると藤真くんはププッと小さく吹き出し、笑いを堪えていた。そこでちょうどチャイムが鳴り、藤真くんは声を出して笑い始めた。


「アハハハハ…!何だよ、勉強してねぇじゃん」

『あ゛っ…!こ、これは…その……息抜きというか…!』


どうやら藤真くんはノートに描いた絵を見て笑っているらしい。しかもよりによって食べ物の絵ばっかり…。


『と、ところで、さっき何て言ってたの?』

「あぁ、悪い悪い。声出すのはマズいなと思って。〝好きなんだ〟って言ったんだ」

『は?!え?!』


思わず大きな声が出てしまい、周りの視線が突き刺さる。

え、待って…好き?!あの藤真くんが私を?しかもめちゃくちゃ突然過ぎない?!やっぱ王子様と呼ばれるだけあって、思考回路も凡人とは違うのかな…?いや、今はそこじゃなくて…!


「おい、どうした?そのグミいつも食ってるだろ?それ〝好きなんだ〟と思って」

『あ!!そっち?!』

「そっちって他に何が……あー……悪い。そっちな…はいはいはい…」


藤真くんは私の意図を察したようで、言葉を濁した。そして俯いたかと思うとみるみる赤くなっていった。


「そっちの方は…受験が終わったらちゃんと言うから……」


私にだけ聞こえるようにそう言って藤真くんは教室を出て行った。私はその場に立ち尽くす。


〝好きなんだ〟


たった五文字のその言葉が何度も再生される。


『……受験、頑張ろ』


その後、ようやく勉強するスイッチは入ったのに全く集中出来なかったのは言うまでもない。

藤真くんのたった五文字の言葉が、私の未来を大きく左右する。

なんて罪深いのだろう。

そう思い藤真くんの方を見るとまた目が合ってしまった。何だか悔しくて〝バカ〟と口だけを動かすと、またププッと吹き出していた。

私だけに向けられるその笑顔はもっと罪深い。

ちゃんと責任取って貰うからね…!



おわり


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