夏の余韻
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そんな心の中が騒がしい日々を過ごし、いよいよ夏期講習最終日を迎え、花火をする時間になっていた。
皆思い思いに花火を楽しんでいる。そうなると当然ふざけて花火を振り回したりする奴が必ずいる訳で、とてもじゃないがゆっくり話を出来ず、俺と名字さんは皆から少し離れた場所で花火を楽しんだ。
『わぁ…綺麗…。なんか良いね。大阪での初めての夏の思い出だよぉ』
嬉しそうにそう話しながら花火に照らされて微笑む顔や、花火を持つ指先はずっと見ていたくて、このまま今日が終わらなければ良いのに、なんて思ってしまった。
『あ、もう最後だ。はい、南くん』
そう言って名字さんは線香花火を俺に渡してきた。そうか。もうこれが最後の花火なのか…。
「…勝負せえへん?どっちが持つか」
『お、良いね!じゃあせーので火から離すよ?…せーのっ!』
名字さんの合図で火から線香花火を離すと、ジジジ…と音を立てて火の玉が出来ていく。その大きな球体には二本の線香花火が繋がっていた。そう、火から離す時にくっついてしまったのだ。勝負に勝ったら言うつもりだったのに、これは予想外の展開だ。
『…くっついちゃったね』
「そうやな」
『これじゃ勝負になんないね』
線香花火はパチパチと光を放つ。短い時間で全てを出し切るその姿は俺の背中を押してくれた。
「俺な…」
『うん?』
「…今日でこのまま名字さんと会われへんようになんの嫌や」
言った。言ってしまった。こんなキザな事、普段なら絶対言わないだろう。そうさせたのは…夏だからってことにしてしまえば良い。なんて都合の良いことを考えてしまう。
『私も…同じこと考えてました…』
「…っ…ホンマに…?」
名字さんの言葉に動揺し、つい動いてしまった。途端に大きな火の玉は見事に地面へと落ちて行ってしまった。
『ふふっ…南くん動いちゃダメだよ』
「わ、悪い……せやかて今のんは…動いてまうやろ…」
『……良かった。南くんも同じ気持ちで嬉しい』
安心したように微笑む彼女の表情が俺の心臓をギュッと鷲掴みにする。これはもう……。
「…これからも一緒に勉強したりしたいねん。大阪の事も教えたるし…」
『はい。宜しくお願いします』
この気持ちがどこへ向かっていくのかはまだ分からないけれど、俺の中に何かが芽生えたのは確かだ。少しずつ進んで行ければ良い、だなんてまたしても柄にないことを考えてしまう。
線香花火の振動がまだ少し指先に残っている気がする。そんな事を思いながら夜空を見上げた。
そして二学期の始業式の日、豊玉高校に転校生がやって来ることを俺はまだ知らない。
『言ったら面白くないでしょ』
そう言って笑う名字さんには、きっとこれからも敵うことはないだろう。
短い夏の余韻からは当分抜けられそうにない。
おわり
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