秋田の短い夏の夜
ここ数年の夏休みは、合宿やインターハイの会場にいて家にいることなんてほぼ無かった。だから地元の祭りである竿燈祭りがこの期間に行われていることなんて知らなかった。最後に見たのはいつなのかさえもよく分からないが、一つの節目となる高校最後の夏をこんな風に過ごすことになるだなんて夢にも思わなかった。
ただ家でじっとしている俺に、せっかくだから観に行ってみたら?と母が言ってくれ、それも良いと思い出かけてみることにした。
いつもは人通りの少ない道を、人間が浮かれたように同じ方向に向かって歩いている。祭りとは何とも不思議なものだ。しかし個人的には静かな場所でゆっくりと見物したいため、途中の分かれ道を皆とは反対方向に進もうとしたその時だった。
視線を感じ、振り向くとそこにはあの子が立っていた。あの子、とは俺のストーカーで、俺の好きな女の子の事だ。
『…きょ、今日は違います!本当に偶然です!!』
「主語が無いピョン」
学校で見る時と違い制服を着ておらず、暑いからか髪をポニーテールにしている彼女に思わず目を奪われる。
駄目だ…。
本当はちゃんと場を設けて言うつもりだったのに、今自分の気持ちを言わなきゃいけない気がして気付けば彼女と一緒にいた友だちに「すまないがこの子借りてくピョン。ちゃんと送るから安心して欲しいピョン」なんて言っていて、彼女と二人で坂の上の公園に向かった。
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