土曜日の夜
「ただいま」
なんと三井さんが帰って来たのだ。私は玄関が開く音にも気付けていなかったらしい。当然三井さんは泣いている私を見て驚き、すぐに側に駆け寄って来てくれた。
「お、おい…どうしたんだよ?何かあったのか…?」
三井さんは心配そうに私の顔を覗き込んでいる。それでも何も言えずにいた私を抱き締めてくれた。
汗のにおいがする。急いで帰って来てくれたのかな…。
そう思うとまた涙が溢れてきてしまったが、三井さんは何も言わず、ただ黙って私が落ち着くのを待ってくれた。
それから少しして、私は少し冷静さを取り戻していた。
「んで、一体何があったんだよ」
『…あのね……』
私は三井さんに経緯を話した。すると三井さんはハァ〜と息を吐き、その場に座り込んでしまった。
『み、三井さん…大丈夫…?』
「お前、そんな事で泣くなよなぁ」
『ごめんなさい…でも何か急に不安になっちゃって…二度あることは…』
「だー!もう!ねぇよ、絶対ねぇ!そんなジンクス俺がねぇって証明してみせる!」
三井さんが少し大きな声を出したため驚いたが、その顔が真っ赤になっていて、言葉の意味を理解した。
『それってつまり、ずっと一緒にいてくれるってこと…だよね…?』
「…当たりめーだろ」
『三井さぁん…好きぃっ…!』
私は思いっきり三井さんに抱き着いた。
この人となら大丈夫。馬鹿なことを考えてしまった自分が恥ずかしい。
付き合い始めた記念日がもうすぐやって来る。
今年は出会ったあの映画館に行きたいな。
また隣りに座って映画を観ようね。
今度は通路を挟まずに。
これからも隣りにいるのが、どうか三井さんでありますように。
心の中でそう唱えながら、私は三井さんの腕の中で目を閉じる。そして気が付いた。
今日もまた土曜日の夜だと。
おわり
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