嫌いになれない
さて座ってしまう前にお風呂を湧かしておこうかなと思った時、玄関のドアが開く音がした。
「ただいま」
『…おかえりぃ。丁度良かった。ご飯出来たとこなんだ』
早く全ての家事を終えてしまいたいという私の気持ちを察したかのようなタイミングで烈が帰ってきた。そして烈が着替えている間にお風呂を入れ、ケトルにスイッチを入れる。テーブルにご飯を並べている間にお湯が湧き、お吸い物とカップ蕎麦が完成した。いつもなら天ぷら後乗せ派だが、今日はクタクタにお出汁を吸った天ぷらじゃなければ身体が受け付けない気がして、先入れに変更したのだった。
そしてお互い席に着くと、烈は何も言わずに私を見ていた。
『あっ…ごめん。ご飯出して無かったね。待って、すぐ出すから』
急いで立ち上がり烈の横を通ろうとした時、突然手首を掴まれた。
「準備せんでええ」
『へ…?』
「…せっかく作ってもろて悪いんやけど、コレ明日食うてもええか」
そう言って烈はラップを持ってきて、お吸い物以外のおかずに掛け始めた。手抜きだったのがマズかったのだろうか。どうしよう…疲れてるのは烈も一緒なのに私ってば何してんだろ…。沈み切ったと思った気持ちがさらに奥底に行ってしまいそうになる。何も言えずに立ち尽くしていると、烈が私と同じカップ蕎麦を持ってきて、お湯を注ぎ始めた。
『えっ…ちょ…何して……』
「疲れとるんやろ?そんなら無理して俺の分だけ作らんでもええ」
『でも…それじゃ烈が…』
「…俺もお前と同じの食いたいねん」
烈は少し照れくさそうにそう言いながら、ケトルを置いて蓋を閉めた。
『烈ぃ〜…!好き!もうそういうトコ、ホント好き!!』
「分かった分かった。ほら早よ食わんと伸びてまうで?」
『良いよ。待つ。烈と一緒に食べたいねん!』
烈の真似をすると、烈は「アホ」と言って頭を撫でてくれた。そしてよく見ると、烈も天ぷらは後入れ派のはずなのに、今日は先に入れている。
そういう所なんだよ、本当に…!
その後、クタクタに伸びたカップ蕎麦はお腹を幸せいっぱいに満たしてくれた。ついペロッと食べてしまい、嘘みたいに膨れたお腹を見せると烈が笑ってくれた。
これだから金曜日の夜は嫌いになれないんだよね。
おわり
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