嫌いになれない
もう少しで家に辿り着く。ようやく金曜日の夜がやって来た。
金曜日の夜が大好きだ。土曜日は休みだからテレビや漫画は見放題だし、いつも一本で終わるビールは二本開けても平気。朝もゆっくり寝ていられる。この小さなご褒美があるから日々の労働を頑張れる。
でも、今日は少し違っていた。
家が近付くにつれ疲れが増してきて、同時に何もやりたくないという気持ちがどんどん大きくなっていく。
あー…今日はダメな日だ。
こんな風に、私にはダメな金曜日の夜がある。それはあまりの疲労に帰宅後の生活をやる気力がほぼ残っていない日を指す。
洗面所で手を洗いながら鏡に映る自分の顔はハリツヤなんて皆無で、嫌気がさす。キッチンに立ち水筒とお弁当箱を洗い、冷蔵庫に顔を突っ込んで残り物の煮物と作り置きの副菜、丁度一人分くらい残っていた玉ねぎと豚肉をフライパンに放り込んで調味料と生姜チューブで味付けした。こんなにテキトーに作ったのに、良い香りがしてきて幸福度合いが増すにつれて惨めな気持ちになった。それでも愛する旦那さまに食べて貰うのだから、そんな気持ちを押し殺してお皿に盛り付ける。
ご飯は烈が帰ってきたら冷凍したやつを温めれば良いし、汁物はフリーズドライのお吸い物にお湯を沸かして注げば良い。お湯を沸かすのは私の晩御飯にも必要だから。ど○兵衛特盛天ぷら蕎麦だ。特盛は食べられない量という訳ではないが、食べたら後悔するくらいのボリュームはある。けれど他のシリーズには入っていないワカメが妙に美味しくて、以前普通のと間違えて買って食べた時にハマってしまい、ネットでケース買いしてしまったのだ。こんな風にどうしようも無く心も身体もボロボロの日は妙にこのカップ蕎麦が食べたくなるのだが、だからと言って烈にもこれだけを食べさせる訳にはいかず、最後の気力を振り絞っておかずを作った、ということなのだ。
.
1/3ページ