週末の娯楽


翌日

目が覚めてもまだ余韻が残る身体に違和感を感じつつ、いつも通り会社に出社した。周りは皆月曜日独特の気怠さを身に纏っているが、私だけは別の意味のそれに包まれている。そんな事を考えながら会社の廊下を歩いていると、ふわりと香ったのは昨夜と同じあの香りだった。

え、ウソ…ちょっと待って……幻…嗅…という言葉があるのは知らないが、情報整理が追いつかない。

私はその場で脚を止め、ゆっくりと振り返った。そこにはかなり身長の高い男性社員が私と反対方向に歩いて行く景色が見えた。

あんなに身長が高い人がそうゴロゴロいるはずが無い。心臓に血液が流れる音がドクドクと聞こえるようで、それを掻き消すように私は声を出す。


『あのっ…!すみません!』


必要以上に大きな私の声で、その人は立ち止まって振り返った。昨日と違って眼鏡をかけていたが、その人の口元がフッと緩んだ途端、確かに彼だと気付く。


『…ど、同僚だったんですね、私たち…』

「…やっぱり気付いてなかったんですね」

『え゛?!き、気付いてたんですか?!』

「はい、初めから」

『な、何で言ってくれなかったんです…?』

「その方が面白いかなと思って」


眼鏡の奥には昨日私を抱いてくれた瞳が見えた。また思い出してしまい、身体がゾクゾクと反応してしまう。何も言えずにいると、彼は腰を曲げ、私の顔を覗き込むようにして言った。


「今度はちゃんと誘っても良いですか?それともまた偶然会えたら、が良いかな」


周りに聞こえないようにするためか、囁くように彼はそう言った。きっともう全部見透かされてしまっているのだろう。敵いっこない。


『さ、誘って下さいっ…!』

「ハハッ。承知しました」


この時の彼の優しい笑顔が眩しすぎて、直視出来なかった。

とりあえず部署はどこなのか、から聞いてみようかな。

こういう始まり方もアリ…だよね…?




おわり


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