週末の娯楽



「カウンター席、どうぞ」


グラスを拭くマスター?風の人にそう言われ、私は端の方に座る。慣れない雰囲気に戸惑ったが、メニューにある「焼き魚定食」の文字に胸を撫で下ろした。

その後、無事に食事を済ませると、マスターから「食後に一杯いかがですか。お食事された方は半額になります」とドリンクメニューを渡された。周りを見渡すと皆静かにチビチビと飲んでいて、その幸せそうな雰囲気に流されてしまう。


『…じゃあ一杯だけ。この大吟醸下さい』


実は日本酒が好きな私は、迷わず大吟醸を選んだ。ここなら一人で日本酒を飲んでいても誰も好奇の目を向けてこないと思ったから。


「お待たせしました。○○の大吟醸です」


え、もう来た?早くない…?と思いながら顔を上げると、同じカウンターの少し離れた方に座っている男の人に出された声だった。

その人は座っていても分かるくらい身長が高くて手も大きく、何より横顔が綺麗だった。桝に入った花模様のグラスを丁寧に持ち、日本酒をそっと口に含む姿は、まるでそこだけドラマが繰り広げられているような、別世界のように美しかった。

つい見惚れていると、目が合ってしまった。すると、ちょうどそのタイミングで私の所にもお酒が出される。マスターの声で同じ物を頼んだと気付かれたようで、彼の口元が緩んだ。そして乾杯するようにグラスを持ち上げて少し傾けた。まだ中身がいっぱいの私は持ち上げる事が出来ず、会釈してからゆっくりとお酒を口に含んだ。

この銘柄は好きでよく飲むが、毎度初めて飲んだ時の感動を味わえる。まるでみずみずしい果物を頬張ったように、香りと甘さが広がり、喉から胃にかけて通った所が全部幸福で満たされるのだ。

という感情が全て表情に出ていたのだろう。私を見て彼はクスクスと笑っていた。恥ずかしくなった私はつい目を逸らしてしまう。すると彼は立ち上がり、お酒を持って私の隣りの席に来た。


「良かったら一緒に飲みませんか?」


そう言った彼の優しい微笑みと綺麗な瞳が眩しかった。しかもそれだけでなく声が物凄く好みな感じで、こんな状況があって良いのか、これは夢なんじゃないかと思った。



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