春、見つけた。

春、見つけた。(仙道ver.)

寒い冬が終わり、ようやく釣りに行くのが気持ち良い季節になった。

練習までの数時間、いつものようにクーラーボックスと釣り竿を持って海辺近くの釣り餌屋に脚を運ぶ。そこは小さな店で、居眠りしている店主のお爺さんが一人ポツンと座っている。あのゆったりした空間が結構好きだったりするのだ。

会うの久しぶりだな…なんて思いながら店の引き戸を開けると、中には俺と同じくらいの年頃の女の子がいた。エプロンをしているから、たぶん店員なのだろう。こんなバイトを雇う程、余裕があったことに驚いた。


「あの…いつものお爺さんは?」

『お爺ちゃんは入院しました。代わりに孫の私が店に立ってます』


ハキハキと答える彼女は、ちょっと気が強そうであのお爺さんのゆったりした感じとは真逆だった。


「それじゃ、コレ下さい」

『……今日は波が穏やかだから、こっちの方が釣れますよ。100円高いですけど』


意外な言葉に俺は一瞬、動きが止まってしまった。


『あ、高いのを売り付けようって訳じゃないですよ?今日は特別に100円引きます。その代わり、釣れたらまた来て下さいね』

「…釣れなかったら?」

『それは…あなたの腕が悪いんですよっ』


少し口を尖らせて話す彼女が可愛くて思わず吹き出してしまう。


『なっ…!わ、笑わないで下さいっ!』


春、見つけた。


「いっぱい釣れたらお裾分けに来るよ」


たくさん魚を持って帰ってきたら、君はどんな顔をするのかなぁ…。


もっともっと、知りたくなった。



おわり

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