春、見つけた。

春、見つけた。(魚住ver.)

今日は貸切の団体予約が入っていて、今まさに最後のデザートを出そうとしている所だ。今日のデザートは桜を模した和菓子で、それによく合う抹茶も出す。

会社の集まりらしく、ほとんどが男だったが、その中に一人だけ小柄な女性が混じっていた。

デザートを出しても他の奴らは酒を飲みながら、社会情勢について熱く語っているが、彼女だけは嬉しそうに和菓子をまじまじと眺めている。


『あの…これはお店で作ったものですか?』

「はい。全てうちで作ってますよ」

『そうなんですね…凄く綺麗…。食べるのが勿体無いけど、食べる為に作って頂いたんだから、食べますね?』

「勿論です。どうぞ」


彼女は綺麗に和菓子を楊枝で切り、ゆっくりと味わうように食べた。その所作の美しさと、頬張った時の幸せそうな表情につい見惚れてしまい、心を奪われた。


春、見つけた。


「来月は柏餅を予定してますよ」

『…ふふっ。商売上手ですねぇ』


商売より、その笑顔がまた見たいから、といつか君に伝えられたら良いな。



おわり

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