春、見つけた。

春、見つけた。(岸本ver.)

いつもと変わらない休日、お風呂から出たら夫の実理にドライヤーをして貰う。人にして貰うのはどうしてこんなにも心地良いのだろう。


「そういやもうすぐお前、誕生日やんな」

『そうやった〜。もうええよ、今更。次何歳になるんやったっけ…?』


もうすっかり良い歳の私たちは、年齢なんてあまり気にしていなかった。子どもがいる訳でもないし、ケーキよりツマミが欲しいお年頃なのだ。


「あ、白髪ある」

『えっ…!ウソぉ…!抜いて〜!』

「ちょ…動くなって…!束で抜けたらハゲになるで〜」


ジタバタと騒いでいたものの、ついに白髪がキテしまったか…と思うと、それもまたお年頃ってやつなのだろうか。


『…来年の誕生日には白髪何本になっとるかなぁ』

「どうやろなぁ。シワも増えるかもしれへんで」


ハハハと笑いながら、実理はドライヤーの続きを始めた。

何だかこの瞬間が物凄く幸福で溢れている気がして、ジーンと目が熱くなった。


『春が来るたび、今日の事思い出す気がするわ』

「何やそれ。春と言えば白髪!ってか?…お、誕生日、日曜やんけ。久々にめかし込んでどっか行かへん?」

『…うん、行く』


春、見つけた。


白髪だらけになってもずっと側にいてよね。



おわり

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