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南さんちの昔話



「おい、待てって」


無意識に烈の言葉に反応し、キィッとブレーキ音が響く。それと同時に涙がこぼれ落ちてきた。


『烈が頑張っとると思ったから私も頑張っとったのに…っ…』

「おい、ちょっと落ち着けや」

『こんなんじゃ私、頑張られへんよぉ……もうええ。バイバイ、烈』


自分が何を言ったのかもよく分からず、私は再び自転車を漕いだ。涙で前がよく見えないが、とにかく今はここにいたくなくてただ無心で前に進んだ。そして案の定、すぐ側の電柱にぶつかり、見事に崩れて落ちてしまった。


『うぅぅ……痛ぁ……』


座り込んだコンクリートが冷たい。その虚しさから、真っ暗な底の無い空間に沈み込んでしまうのではないかと思った。

もういっそ、それでも構わない。烈を失った今、私は何を楽しみに励みに生きていけば良いのだろう。そう思った時だった。


「おい、大丈夫か?!」


烈が駆け寄り、私の腕を引いて身体を起こす。心配そうに顔を覗き込み、涙でぐちゃぐちゃの私を見てギョッとしていた。


『いや!今ブスやから!こっち見んな!』

「もう見てもーたわ」

『離してっ!』

「離さへん」

『何でっ!もうバイバイや言うたやろ!』

「俺は同意してへん」

『その人とおったらええやん!私おっぱい小さいし!!』

「あの人は大学の先輩や。レポートやって帰る電車で会うて、家が見たいって勝手に着いてきただけや」

『……ホンマに?』

「ホンマに」

『ホンマのホンマに?』

「ホンマやって」

『…じゃあ別れんのやめる。私、烈に会いたかってん…』

「…俺も会いたかったで」


思わず烈に抱き付くと、長い腕が私を包み込む。やっぱりそこは私の一番落ち着く場所で、私だけがいて良い場所だと思った。これから先もずっと。

その後、先輩にひたすら謝り倒し、何とかその場を乗り切った。もちろん後日、烈には彼女がいて誰も触れない二人だけの国の住人だということが大学で知られることになる。




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