私の全て


気付けば季節は夏だ。世間は所謂お盆休みであるにも関わらず、私はというとすっかり見慣れた夏服姿で駅のホームに立っている。夏期講習という名の補習を受けに行くのだ。そもそもそんなにバカじゃなかったはずなのに、何故こんなことになったか。それはつよしくんがいなくなって、何に対してもやる気が出なかったから。これは言い訳ではなく、紛れもない事実なのである。そうなると、つよしくんのせいでこうなったということになる。そう思うと嬉しくなってしまう自分は変態の向こう側にいる気がした。

いつもと違って、早朝の駅にはほとんど人がいない。湿度の高い風と、耳障りな蝉の声、立っているだけなのに首元を伝う汗。これが私の青春なんだ、とよく分からない感覚に酔いしれる。うん、悪くないかも。そう思いながらぼんやりと立っていると、背後から声がした。


「ブラ透けてんで」


うわうわうわ…朝から勘弁しておくれよ…これだから休み期間中は…と思いながらゆっくりと振り返ると、そこに立っていたのはつよしくんだった。私の記憶の中の映像より何万倍もかっこ良くて、大人っぽくなっていた。何も描いていない白いTシャツがよく似合っていて眩しい。

タイミング的に帰省だろうか。え、お盆バンザイ…!


「大きなったな」


そう言われ、思わず両胸に手を当ててしまったのだが、つよしくんはギョッとしていた。どうやらそういう訳では無かったようだ。


「そっちちゃうわ!成長したっちゅーか、そのアレや、すっかりええお嬢さんになったなってやつや!」


どうやら私は、つよしくんにちゃんと認識されていたらしい。まともに話したことなんてほとんど無いのに。


嬉しい。


そう思うと、急に世界が色付いていった。風は心地良く、蝉の鳴き声は風情があり、首元を伝う汗は爽快になる。だって今、私はつよしくんと同じ世界を生きているんだから。




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