私の全て


同じ町内に住んでいる南さんちのつよしくんは私より三つ学年が上だ。

存在を認識したのは小学四年の時で、子ども会の集まりがあった時だった。少し控えめで、あまり表情を変えないのが印象的だった。何だか他の子たちと少し雰囲気が違っていて、気付けば目で追うようになっていた。学年が三つ上ということは、中学も高校も被ることはない。だから、私とつよしくんの共通点は同じ町内に住んでいることだけだった。

子ども会が無ければ顔を見ることも無いため、私はよくお母さんのおつかいを買って出ていた。そう、南龍生堂に行けば店番をしているつよしくんがいるからだ。あからさまにやる気が無さそうにレジ前に座り込むつよしくんは子ども会では見られないレアな姿で、それが何だか嬉しかった。しかし、店に行ったからと言って話しかけたりはしなかった。つよしくんからすれば、私は同じ町内に住んでるガキんちょな訳で、もしかしたらそんな認識すらされていないかもしれない。それならば姿形を見られるだけで十分だと思い、普通に買い物をして普通に家に帰るだけにしていた。それだけで帰り道はスキップしたいくらい心が満たされていたから。

しかしこの幸せな時間は、つよしくんが高校に入った途端に無くなってしまった。何でも部活が物凄く忙しいらしく、朝早く家を出て夜遅く帰ってくるらしい。それを知ってからは進んでおつかいに行くのを辞めた。お母さんは反抗期に突入したんだろうと思っていたらしく、特に深く追求されなかった。

それから、つよしくんに遭遇することはほとんど無かった。同じ町に住んでいるはずなのに、同じ時間を生きていない気がしていた私は、気付けば高校生になっていた。豊玉とは真逆の電車通学しなければならない女子高を選んだ。つよしくんが歩んだ道に逆えば、また会えるかもしれないという捻くれた発想故にだ。

つよしくんは大学生になったらしく、大阪にはいるが家を出て一人暮らしをしているそうだ。ついに同じ町に住むという唯一の共通点さえ無くなってしまった私は、こんなことなら豊玉に行くんだったと後悔していた。





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