ご褒美の金曜日



「もしかしてあまり美味くないのか?」


ふと牧さんの言葉で我に返る。しまった…ぼーっとしていた…。


『え…いや…その…』


いきなりの事に思考がついていけずもごもごしていると、牧さんの腕がそっと腰に回ってきた。


「どこか具合でも悪いか?今日はゆっくり休んだ方が良いんじゃ…」


牧さんは真剣に心配しているようだ。違うの。言わなきゃ…言わなきゃ…。


『あ、あのね牧さんっ…』


大きめの声を出したからか、牧さんは少し驚き、キョトンとしている。


『実は私、明日仕事になっちゃって…だからその……お酒もエッチも今日は…ほ、程々にっていうか…あの…』


せっかく楽しみにしていたであろう〝いつもの金曜日〟を過ごせないのが申し訳なくて、上手く言葉が出てこない。そんな私を見て牧さんは状況を理解したのか、プッと吹き出して笑い出した。


「なんだ、そういうことか。それなら今日は早く寝ないとな。これはまた明日にしよう」


そう言って、牧さんはワインのボトルに栓をはめた。


『…ごめんね』

「仕事なら仕方ないだろう?それに今日楽しめなかった分は明日楽しめば良い。だから、明日の夜は覚悟しておいた方が良いぞ?」


牧さんは優しい笑顔でとんでもないことを言い出した。もう…ドキドキしちゃうよ…。

しかし、さっきまでのモヤモヤが牧さんの言葉でで消えてしまった。

牧さんてホントに凄いなぁ。

牧さんがいなきゃダメだなぁ、私。

そう思うと何だか急にこみ上げてくるのもがあり、私は思わず牧さんに抱きついてしまった。そして牧さんの顔を見上げる。


『牧さん、ありがとう。大好き』


そう言うと牧さんは目を細め、私の髪を優しく撫でた。


「…そんな可愛い顔で見つめられたら、明日まで待てないな」

『えっ?』


牧さんはそのままの体勢から軽々と私を抱き抱えた。そして耳元でこう囁く。


「…〝ほどほど〟なら良いんだろう?」


その甘い声と吐息に身体がゾクゾクと反応してしまう。あぁもう、敵わないなぁ…。

私は静かに目を閉じ、牧さんの広い背中にギュッとしがみついた。


その後、〝ほどほど〟とは程遠い夜を過ごしたのは言うまでもない。


たまにはこんな金曜日も良いね、牧さん。

だって牧さんをもっと好きになったから。

私たちの金曜日の夜は、やっぱりご褒美の日になった。




おわり


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