お砂糖なんて要らないくらい。
バイトを終えた私はそのまま学校に向かった。朝のことが夢のようで、講義の内容なんて全く頭に入って来なかった。講義が終わったチャイムにも友だちに呼ばれるまで気付かなかった。
「ちょ…ノート真っ白じゃん…大丈夫…?」
『えっ…あ…』
友だちに言われてノートを見ると、そこには〝シロップ多め〟と小さく書かれていた。その文字が彼の声で再生されて頭の中で響き、頬がポポポと熱くなる。いつも全く同じオーダーだったから、初めて聞いたこの言葉が嬉しかった。
それから夕方までビッシリ詰まった講義を終え、私は家に帰った。
「君のこと考えとったら、甘いのが飲みたくなってん。良かったら、今夜電話してな」
彼の言葉が頭の中で何度も再生される。その時に渡されたメモを見返してみると、電話番号の下に〝ツチヤアツシ〟と書かれていた。
ツチヤさんっていうのかぁ…。
何歳なんだろう。
どんなお仕事をしてるんだろう。
あれ…〝今夜〟って何時に電話したら良いんだろう…。19時だとまだお仕事してるかな?そもそも何を話せば良いの…?電話した所で上手く話せる自信が全く無いんだけど…!!
時計を見ては考え、電話を手に持っては考えるを繰り返している内に時間は過ぎてしまい、時計は23時を示していた。
もう無理…。
結局この日は電話をかけられなかった。そしてもちろんなかなか眠ることも出来なかった。
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