夢の中でなら...
店の前に近付くと、ショーウィンドウの中がいつもと違うことはすぐに分かった。急いで近くまで行くと、業者の人があのマネキン人形を片付けようと持ち上げている所だった。
あの話は、本当だったんだ…。
夢の中の話だったはずなのに、今それが現実となって目の前で進行している。でも彼女は夢の中とは違って全く動かないし、声も出さない。
それでも、彼女は確かにいたんだ…!
ちゃんと伝えなきゃ。分厚いガラスの板を突き破るくらいの声で。
「ありがとう…!俺、忘れないから!!」
大通りのセレクトショップ、大きなショーウィンドウの中にはトレンドの衣服を纏うマネキン人形が飾られている。来る日も来る日も街行く人たちを眺めつつ、いかに服やアクセサリー類を綺麗に魅せられるか、という使命感を持って彼女は立ち続け、立派に役目を終えた。
マネキン人形はある青年に恋をした。
来る日も来る日も彼を想う。
そして願いが叶い、ついにその想いを伝えることが出来たのである。
苦しくもそれは、彼女の役目が終わる日のことだった。
これは不思議で切ない、恋の話。
『ありがとう』
おわり
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