夢の中でなら...



『あなたがいつも会いにきてくれるのが嬉しくて、こんな日がずっと続けば良いなって思ってました。でも、もう終わりなんです。だから一度で良いから私があなたに会いに行ってみたいと思ったんです。それが私の想いです』

「もう終わり…?」

『…私はお役御免なんです。都会のショーウィンドウに長く立ち続けられただけで満足です。でも何より、あなたが私を見つけてくれたことが嬉しかった。だからありがとうって一言だけ言いたかったの』


彼女の言葉を信じて良いのかは分からないけれど、終わりなら俺からもちゃんと伝えなきゃいけないよな…。


「俺の方こそいつも元気を貰ってありがとうって思ってた。もうあそこにいないと思うと、寂しいな…」

『…っ…そんな風に思って貰えて嬉しいです。もう思い残す事は無い…。さようなら、お元気で。私がいなくてもあなたならきっと大丈夫ですよ』


彼女は優しくそう言い、その場を立ち去ろうとした。


「待って!最後に一つだけ教えて。何で俺に会いに来たいと思ったの?」


俺以外にもあのマネキン人形を見て立ち止まる人はたくさんいたはずだ。なのに、どうして俺に…?純粋に疑問に思ったから聞いた。そして彼女はクスクスと笑いながら答えた。


『ふふっ…決まってるじゃないですか。あなたが好きだからですよ』


少しだけ見えた口元が、あのマネキン人形に似ていると思った。

最後にちゃんと顔が見たくて手を伸ばす。

でも次の瞬間には目が覚めていて、セットしていた目覚ましが鳴る一分前になっていた。ああ、もう少しだったのに…。

それからいつものように会社に行く支度を始めたけれど、何だか落ち着かなかった。いつもと変わらないはずの朝なのに、こんなにも気持ちが高まるのはいつぶりだろう。

俺はいつもより早く家を出た。もちろん、あの店に行くために。





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