夢の中でなら...


今日も気付けば空が暗くなっていて、俺はシャワーを浴びてベッドに入る。もう秋だというのに何だか少し暑くて、何となく夜風に当たりたくなりベランダに出てみた。街の明かりを見て人は綺麗だなんて言うけれど、俺にとってはただの人が生活する電気が点いているだけにしか見えない。

うんざりしながら空を見上げると、一つだけ嘘みたいに煌めく星を見つけた。何だろう…こっちを見てくれと言われているような気がする……なんてな。やっぱり少し疲れているのだろうか。でも、こういうのはドラマがありそうで嫌いじゃないかもしれない。さて、少し冷えてきたからそろそろ部屋に戻ろう。

俺はそのままベッドに入り、目を閉じた。ただ星を見ただけなのに、少しだけ心が和んだ気がした。


そしてふと気付けば一面原っぱで、青い空がどこまでも続く所にいた。少し歩いてみるが、景色はちっとも変わらない。

ここはどこなのだろう。

何も無いし、誰も居ない。

…でも逆に、それが何だか心地良い。

何だか開放的な気持ちになった俺はその場に座り込み、黙って空を見上げた。こんな真っ昼間から空を見上げたのはいつぶりだろう。綺麗だなぁ…。

少しして今度は何かが動いた気配を感じ、目を向けると女の人が一人立っていた。長い髪がサラサラと風に靡いている。こんな所で何をしているのだろう…っても俺も同じか。そして、もしかしたら彼女ならここが何処か知っているかもしれないと思い、近くまで行ってみることにした。

あれ?何処かで見たことがあるような…?

そして向こうが俺を認識したと思った途端、彼女は急に俺に背中を向けてしまった。ヤバい…怪しまれてるかな…。でも他に手がかりは無い。


「あの…ここが何処か分かりますか?俺気付いたらここにいて…」


俺が話しかけても、彼女は振り返らなかった。そして背中を向けたまま、か細い声を出した。

『私の想いの中…かもしれません』

「想い…?」

『いえ、あなたの夢の中と思って頂ければ良いです』


何だかよく分からないけれど、夢の中なら何が起きても不思議ではない、と思うことにした。そして彼女は話を続けた。


『単刀直入に言います。私はあなたがいつも通勤の時に見ているマネキン人形なんです』


え…?

確かにあのマネキン人形にはいつも元気を貰っているが、夢にまで出てくるなんて俺はやっぱり疲れているのだろうか…。あまり状況が掴みきれない俺は何も言葉を返すことが出来なかった。





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