何でもない今日でさえも
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今日はいつもより少し残業が長くなり、帰るのが遅くなってしまった。とは言え、いつも座れない電車で座れたり、駅ナカのパン屋さんが値引きを始めたりと良いこともあったから良しとしよう。そう思うといつもの改札も何だか特別に感じた。そして一歩外に出た途端、私の前に女の人が立ち止まった。その人の顔を見た途端、誰なのかはすぐに分かった。
淳の元カノだった。
あの日、私の元カレと並んで歩いていた様子が頭の中で再生される。その時に比べると何だか疲れきっているようにも見えるが…。そもそも彼女が私に一体何の用があるのだろう。もしや淳とのこと…?
彼女は私の目をジッと見て、ようやく口を開いた。
「あなた、私の彼氏とまだ隠れて会ってるでしょ…?」
何を言い出すかと思えば、元カレとの関係が続いているのではないかという事だった。何故そう思ったのかはよく分からないが、とりあえず淳との事は気付いていないようだ。
『彼と最後に会ったのは、もう一年も前ですよ。私はあなたとあの人が街で歩いとるのを見て、自分が二番手やって気付いたんです。その日から一度も会ってませんし、連絡も取ってません』
こういう人にはハッキリと意思を伝えた方が良いと思い、つい仕事の時のような口ぶりで言葉を発してしまう。
「最近彼の様子がおかしいから、またあなたと会ってるんじゃないかと思って。それにこの駅で降りるってことは、あの人と会ってた時と同じ所に住んでるってことよね…?」
この人は、おそらくカマをかけている。
どうしてだろう。いつもはあまり勘付くようなことなんて無いのに、こういう場面では妙に研ぎ澄まされた気持ちになる。まるで淳の本当の気持ちに気付いた時のように…。
『…それって個人情報ですやん?詮索されたないです』
私がそう言うと、彼女の表情から張り詰めたような雰囲気が少し無くなった。
「彼がやたらとここの駅周辺に詳しかったからヤマを張っただけ…。あなたの家なんて知らないし、別に知りたくもないわ」
あの日、元カレの隣りを歩く彼女はどちらかというと守ってあげたくなるような印象だったが、恐らくあれは演技でこちらが本性なのだろう。頭がきれそうで品があり、根本的に淳が好きそうなタイプだと思った。そしてそれと同時に、淳があの日言った言葉を思い出す。
「…僕は…ホンマに彼女のこと好きやってん…例え彼女がウソの僕を好きだったとしても構わへんかった……ホンマに泣きたい時って泣けへんもんやな…」
淳が本気で好きだった人…。
淳が触れていた身体は華奢で、肌も髪も綺麗だ。
淳が見つめた瞳は、吸い込まれそうなくらい大きくて綺麗だ。
…でも淳を傷つけたことは、やっぱり許せない。
このまま黙っている訳にはいかない。そう思い、口を開こうとした時だった。
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