月巡りて、満ちる。


おまけ

今夜は十五夜らしい。別に僕はそんなのどうでも良くて、今日も変わらない夜を過ごすと思っていた。いつものように会社から帰ってくると、マンションの非常階段を屋上に向かって上っていく人影が見えた。よく見ると、前にエレベーターで見かけたことがある女の人だった。こんな時間に一体何をしようとしているのだろう。何となく気になって、俺は部屋に戻らずそのまま屋上に向かった。

そもそもマンションの屋上に入れること自体知らなかった。少し肌寒い秋の風が何だか心地良い。

少し入って行くと、さっきの女の人がワイングラスを片手に座っていて、何をするでもなくただぼんやりと月を眺めている。その姿があまりにも綺麗で、暫く見惚れてしまった。もしかしたら、彼女は月からやって来たお姫様なのかもしれない。そして満月の今日、月に帰ってしまうのかもしれない。そう思うと何だか急に切ない気持ちになり、思わず声を掛けていた。


「こんばんは。お隣りええですか?」


君が振り向いたその瞬間から、もう全てが満ちていた。


月巡りて、満ちる。


さあ、一緒に行こう。




おわり

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