月巡りて、満ちる。


翌朝

重い身体を起こし、仕事に行く準備をする。昨日の夜の事は夢だったのかもしれないと思うくらい、ふわふわとした記憶になっている。何だか頭が冴えなくてベランダに出てみた。まだ顔を出したばかりの太陽が眩しい。

今日何曜日だっけ。燃えるゴミの日だったような気がする。

ふとゴミ置き場に目をやると、スーツを着た男の人がパタパタと走って来て、小さなゴミ袋を置いて行った。こんなに朝早くに家を出るなんて、大変なんだなぁ…とぼんやり見ていると、その人が昨日の彼によく似ている事に気付く。

サラサラの薄茶色の髪、白い肌、広い肩幅…間違いない。あの人だ。

何が月の兎よ。

めちゃくちゃサラリーマンじゃないの。

真っ白なシャツが良く似合っている。

駅に向かって歩くその後ろ姿にでさえ、もう私は虜になっていた。


『いってらっしゃい』


小さくつぶやくと、声が風に乗って流れていく。見上げた空にはまだぼんやりと白く月が見えていた。


次の満月の夜はとびきりお洒落をして、ワイングラスは二つ用意しておかなきゃね。


地球の物を口にして、帰れないようにしてやるんだから。





おわり

おまけ→

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