夏休みの終わりに
NAME CHANGE
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『ごめんくださぁぁぁい!』
夏休みも残り僅かと差し迫り、宿題の山と格闘すること早一時間弱。こんなに宿題をやらされる夏休みも人生で最後だろう。…たぶん。
しかし、やっと集中し始めたところで喧しい声が下から聞こえる。店は定休日だし部屋にはおかんがいるはずだ。それなのに何度も繰り返されていて、その声の主が誰なのかは第一声でもう分かっていた。
『烈ぃ〜!降りて来てやぁ〜!』
ついには名指しされてしまった。どうやらおかんはマジでいないようだ。俺は仕方なく一階の玄関まで降りることにした。そしてやっぱり声の主は近所に住む名前だった。
名前は俺と同じ年に生まれているのに、早生まれというだけで一つ上の学年だ。つまりもう高校生ではない。一丁前に大学生なんてやっていて、挙げ句の果てに女子大になんか通っている。物心ついた時から俺より小さかったくせに。
「何やねん。今忙しいねんけど」
『居留守使うからやろ〜。おばちゃんおらんみたいやし。鍵は開いとったけどな』
あのクソババア、俺にはいつも鍵閉めろとか言うくせに自分の事は棚に上げやがって…。
「…んで、何やねん」
『これ!お裾分け!』
目の前に差し出された袋の中には桃がたくさん入っていた。丸くて甘い香りが漂い、見ただけで美味いと分かる。
『早よ冷蔵庫に入れな傷むからな。野菜室に入れるんやで?』
「…よう分からへん」
『えー!もう…しゃーないな。ほな私が入れたるわ』
名前はサンダルを脱いで家に上がった。そして慣れたように台所にズンズンと向かって歩く。
別にズボンがピチピチという訳でもないのに、丸い尻がぷりぷりと動いている。さっきの桃とよく似てるな…なんてことは口が裂けても言えない。いつからこんな〝女〟になったのだろう。そして、いつから俺は名前をそんな目で見ていたのだろう。
生まれた日は一年も違わないのに、どうして俺だけまだ宿題に追われているのだろう。
どうして大学一年生と高校三年生にはこんなにも差があるように感じるのだろう。何とも言えないこのモヤモヤした気持ちを、この数ヶ月間ずっと感じていたのは誰にも打ち明けていない。
冷蔵庫を開ける小さな手に目がいく。爪には見覚えのある青が塗られていたからだ。うちのユニフォームの色と同じ、豊玉の青だ。つい見てしまうと名前は気付いたようで、恥ずかしそうに胸の前で指を絡めた。Tシャツの二つのふくらみも、何だか前より丸みを帯びている気がした。
『烈、せっかく夏休みなのに出掛けへんの?』
「…宿題が終われへんねん」
『…ああ!宿題な!そうかそうか。高校生は大変やねぇ』
勝ち誇ったかのような名前の表情はやっぱりムカついた。少し前に産まれただけのくせに…。
『ほな私、手伝ったるよ。今日家にお客さん来とって、いたらコキ使われるし』
「華の女子大生がええんか、そんなんで」
『たまにはええねん。ずっと華やかなんは、しんどいからなぁ。ほら、二階行こ?』
名前はニッと歯を見せて笑った。こういう所は昔からずっと変わらない。俺には昔からのタチってもんがあるのだろうか…。名前なら知ってるだろうか。でも何だか怖くて聞けず、俺も二階の部屋に向かった。
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