Have to say ...



「僕、友だちとかにこんな話出来る人ホンマおらんくて、ここの店長さん以外では初めてです」

『私も同じですよぉ。好きな事を共有できるのってこんなにも幸せな事なんですね。今日本屋さんで会ったのが、偶然だけじゃない気がするなぁ』


本当にそう思ったらから言った。それなのに、彼は何だか照れていて、変な意味に捉えられたのではないかと少し焦ってしまう。明らかに年上の私がこんな可愛らしい男の子をナンパするだなんて…ないない。そんな風に思って貰えるのはありがたい気もするが、大人になったらそういうのはいつの間にかさらりと流せるようになってしまう。君はまだまだ若いなぁ。なんて、何目線なのかよく分からない事を考えていた。

喋りながらだったため少し長居してしまったが、珈琲が無くなったのでそろそろ帰ることにした。


『あの…それじゃお会計お願いします』

「はぁい。お席でそのままお待ち下さいね」


彼はレジの方に行き、テキパキとレジに打ち込み、伝票に書き込んでいる。


「お会計、こちらになります」


そう言って目の前に出されたのは〝¥440〟と書かれた白い紙と、もう一枚、電話番号らしき数字の羅列が書かれた紙だった。


『えっ…あの…?』


驚いて顔を上げると、彼は真っ赤な顔をして少し俯いていた。そして小さな声でこう言った。


「また珈琲の話、しませんか……二人で」


彼の真っ直ぐな気持ちが私の心を突き抜けて行った気がした。大人だからさらりと流せてしまうだなんて、失礼極まり無かった。どうやら私たちの間に何かが芽生え始めているらしい。

私はトレーにぴったりの小銭を置き、もう一枚の紙を手に取った。


『…今夜、電話しますね…?』


そう言って立ち上がると、彼は嬉しそうに笑っていた。母性本能をくすぐられるってこういうことだったのね…。


「ありがとうございました」

『ごちそうさまでした』


側から見ればただの店員さんとお客さんで、夜が待ちきれなくて堪らない者同士には見えないだろう。

疲れ切った私に神様がくれたひとときのご褒美だったりして…。もしそうならこの電話番号は掛けても繋がらないんだろうなぁ。それはそれで素敵かもしれない。


その夜、ワンコールで電話に出た声からあの仔犬のような笑顔がすぐに浮かび上がってきた。


素敵な物語が待っていそうな予感でいっぱいだ。


これを運命と呼ばずにはいられないよね。




おわり


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