Have to say ...
『ブレンドを下さい』
「アイスとホットどちらにします?」
『ホットで』
そう言うと彼は少しキョトンとしながら私を見た。こんなに外が暑いのに、ホットを飲むの…?とでも思っているのだろうか。だって初めてのお店は必ずホットを飲むって決めてるんだもん…。
「…珈琲、お好きなんですねぇ。すぐお持ちしますね」
彼はニッコリ微笑みながらそう言った。その瞬間、彼も相当珈琲好きだと悟った。よく考えてみれば、こんなこだわり強めのお店でバイトするくらいだし、そんな人が選んだお店ということは期待して良いかもしれない。それにしても、イマドキの若い子でもいるんだなぁ。そう思うと何だか少し嬉しくなった。
「お待たせしました。ブレンド ホットです」
テーブルに置かれた珈琲は陶器のカップに入っていた。小さな泡が淵にポコポコと寄り集まっていて、豆のこだわりが垣間見える。口に入った瞬間の香りと、喉を流れていく時の香りがまた少し違っていて、どんな魔法が掛けられているのかと少しドキドキしてしまった。
『うわ……好き…』
思わず声に出してしまう程、バッチリ私好みの珈琲だった。
「お姉さん、相当珈琲がお好きなんですねぇ」
前から声がして、彼がまだいたことにそれで気が付いた。うわ…恥ずかしい…。
『はい。相当好きですね…。お兄さんも相当…ですよね?』
「よう分かりましたねぇ」
嬉しそうなその笑顔は仔犬みたいで、もっと聞いて欲しいと言わんばかりだった。
それから暫くかなりマニアックな珈琲談議が始まった。こんな話が出来る人が周りにいなかったため、つい饒舌になってペラペラと話し続けた。
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